芸術監督の部屋 第3部:プログラム提供型機関を作る

3-13 アーティストと連携し、地域に独創的な舞台芸術作品を提供するプロフェッショナル・リージョナルシアター型プログラム提供型機関を創る

最後に地域に独創的で質の高い舞台芸術作品を提供するようなプロフェッショナル・リージョナルシアターの在り方を検討しよう。日本の舞台芸術のプロフェッショナルな創造活動は東京に強く一極集中し、地域の活力を生かすような構造になっていない。創造都市論は、これからの地域活力は文化芸術が持つような創造力によって育まれると指摘する。それは、知が社会や経済を支える時代である。このような時代には、地域に意図的に創造力を生み出す仕組み(環境)を作ることが必要になる。その一つの仕組みが舞台芸術におけるプロフェッショナル・リージョナルシアターである。それは、アーティストが地域に住み続ける基盤を提供し、巡回公演に頼らないオリジナルな作品を創り出し、市民に提供する。それは市民の心を豊かにすると同時に、シビックプライドを涵養し、地域のプレゼンスを高める。さらには、アーティストと市民の「ことを紡ぐ」交流をとおして、作品鑑賞のみならず多様な創造的コミュニケーションを生み出すだろう。このように、プロフェッショナルなアーティストが地域に継続して住み続ける環境を作ることは地域に様々なメリットを生み出すことをもっと意識しなければならない。

公立文化施設の多くは、すでに40年、50年経過しており、各地で建て替えや大改修が話題になっている。そこで、発想の転換をして、建て替えを契機に、貸館に頼らないプロフェッショナル・リージョナルシアターを創るとすると、どのような姿になるのか、その場合どのような課題を乗り越えなければならないのだろうか。まず、前提として、催事機能と舞台芸術施設機能を完全に分離することが重要である。行政が公立文化施設の利用を考える催事には、まず卒業式、入学式などの学校行事がある。これらは限られたシーズンにしか発生しない。また、これらは本来、学校の体育館などで十分に実施が可能な行事である。公立文化施設を使うのは、その方が立派に見えるなど、本質的な理由ではない。成人式、あるいは、地域貢献者に対する表彰会などの利用も一般的だが、これも大きな客席があるから使うのであって、劇場機能と無関係であり、施設を分離することができる。実際、多くの中規模都市では、複数のホールをすでに所有している。したがって、明確な意図さえあれば、催事施設と、プログラム提供機関としての舞台芸術施設を分離することは十分に可能である。そして、この方が、効率の良い施設運営が可能である。貸会議室もあえて文化芸術を活動の中心とする施設には併設する必要はない。市役所や地区センターなどの建て替えに伴い、集会室機能を分散化させる方が、利用勝手がいいのではないだろうか。

次の課題は、ホール客席数の増大を期待する貸館事業との決別である。これは実に難しい課題であるが、あえて本論ではそれを明確に主張したい。筆者は、これまで多くの公立文化施設の計画に携わってきたが、公立文化施設のヘビーユーザーである舞台芸術団体や興行者からは、「〇〇席以上ないと(採算が合わないから)利用できない」という声をよく耳にした。岡崎市民会館に勤務をしてよく分かったのだが、自主事業においても、1回公演を前提とする限り、一つのプログラムにかける初期投資をできるだけ回収するには客席数の大きさがものを言う。1事業単位の収支の効率性にこだわる限り、この課題は乗り越えられない。しかし、建築計画者の視点で見ると、異なる考え方もできる。それは、施設の借り手として、あるいは自主事業であっても1プログラムを単独で考える場合には、その収支に着目するのは当然であるが、施設の年間の維持管理を考えた場合には、客席数が大きな施設を維持管理するよりは、客席数をコンパクトにした施設を維持管理し、その規模の差による浮いた維持管理費をプログラムの制作費に当てた方が、プログラム提供型機関としてはずっと効率的な運営ができるという考え方である。実は、筆者は、最初に手掛けた石垣市民会館、駒ケ根総合文化センターあたりからそのことをずっと意識してきた。しかし、一般に公立文化施設を建設する財布とそれを運営する財布とは多くの場合異なっていた。

ドイツの劇場にかかる経費 Deutscher Buehnenferein, Theaterstatistik2017/18を加工


ドイツの劇場の職員経費 Deutscher Buehnenferein, Theaterstatistik2017/18を加工

なぜかというと、施設建設は起債を使って行われることが多く、それは地方交付税という形で国から還元されるため、自治体の財布に負担が少ない仕組みになっていたこと、また、建設にかかわる担当者には、建設後の運営にかかわる経費についての意識が乏しく、また、その多寡についての判断基準も、先行施設の統計的な数字に頼るしかなく、事業をあまり行わない貸館型の施設管理維持に特化した管理運営費をそのまま参照してしまったからである。幾度となく、「施設建設費を半分にして、事業費を倍増してはどうか、そうすると20年、30年の期間にわたり、潤沢な事業費を確保できるのだが」と申し上げてきたが、いつも、その主張は採用されることはなかった。しかし、人口縮小時代に入り、都市の縮小が始まるなかで、新しい知的産業を中心とする産業構造を作るためには文化を中心とする新しい地域経済を回す必要性が生まれており、経済学の分野でも「文化的投資」や「創造的都市」の議論が盛んにおこなわれるようになった。こうした状況を考えると、改めて、施設をコンパクトに作り、浮いた費用で運営費に充てる予算を充実させるという考え方を考慮するべき時代になったのではないか。当然、そのためには、現在のような短期公演を前提にする地域の文化芸術団体や興行者との関係も改めて考え直すことになる。それは、地場の舞台芸術活動を継続的に成長させるにはどうしたらいいかという視点から、地域の舞台芸術の創造と経営の在り方、そして創客の仕組みづくりを含めて抜本的に考え直すということに他ならない。そして、この問題は、地域の将来にかかわることなので、作る側、享受する側がともに理解しあう形で、社会に開かれた議論を前提に行う必要がある。地域で活動する舞台芸術関係者や享受者としての市民など、様々なステークホルダーの合意の上での改革が必要なのである。こうした議論のプラットフォームを提供するのも、「ことを紡ぐ」プログラム提供型機関としての公立文化施設の役割である。

本章では、こうした問題点を意識して、広く地域の舞台芸術関係者や市民に議論のきっかけを提供することも含めて、貸館事業を基本的に行わない地域の舞台芸術施設の在り方の方法をここで提案したい。

まず、比較対象の参考事例として、原則、クローズドシステムを採用するドイツの劇場の状況iを把握しておこう。ドイツにはドイツ舞台連盟(Deutscher Buehnenverein)という全国組織があり、毎年劇場に関する統計を出版している。その総表はインターネットからダウンロード可能なので、それを参照して、概要を把握してみよう。

劇場統計は都市規模ごとにまとめられている。ここでは岡崎市のような全国の中核市に対応する20万人から50万人規模の都市を抜き出してみる。このカテゴリーに属するドイツの自治体は28自治体、劇場数は197、合計客席数は72,570席、対応可能なチケット数は14,800,908枚、公演回数は16,931となっている。ここには、オペラハウスやコンサートホールという比較的規模の大きいものから演劇劇場のような中規模のもの、人形劇場のような小規模のものまで含まれているが、1劇場あたりの客席数は平均で、368席である。あくまで平均であるが、規模としては比較的小さい。1劇場当たりの公演回数は平均86回である。ドイツの劇場では年間通して公演を行い、年間200回、300回と公演するところも多いが、おそらく小さい劇場で公演数の少ないところもあるため、見かけ上、平均値は少なくなっていると考えられる。一自治体あたりの劇場関係経費は日本円に換算iiすると335,000万円ぐらいの規模であり、日本の公立文化施設関連の支出に対して相当大きな額となっている。一つの自治体には複数の劇場があるので、1劇場あたりでは、47,500万円の規模となる。ドイツの劇場は基本的にクローズドシステムを採用している。舞台芸術の製作に必要なアーティスト、技術者などはすべて専属の職員として雇用され、舞台装置なども内製である。そこで、統計を加工して、あえて、制作系経費(人件費と物件費)と管理系経費(人件費と物件費)に振り分けてみた。項目の詳細がわからないので、誤差が相当ある可能性が高いが、思い切って再分類してみた。分析の精度は悪いかもしれないが、制作系経費と管理系経費の割合はほぼ2:1となる。1劇場当たりをみると、管理系経費は15,000万円程度である。ただし、一つの施設内に複数の劇場を持つ施設では、劇場の規模に合わせて全体の規模を案分している値であるということを割り引いておく必要がある。しかし、稽古場や製作場が充実しており、日本の公立文化施設に比較して、施設規模が大きいと想定されることを考えると、この管理系経費の額は日本の公立文化施設の施設管理費とそれほど大きく異なっていないと思われる。

大きく異なるのは制作系経費である。管理系経費の約2倍の額が制作系経費に割り当てられている。これに対して、全国の公立文化施設の中でも積極的に自主事業を行っていると評価されている長久手市文化の家においても、入場料収入と施設使用料収入の合計は総支出の約10%程度、自主事業の入場料収入だけでは2.6%であり、公的助成などすべての収入を合わせても総支出の15%程度であるiii。日本の公立文化施設は基本的に施設を提供するために施設を管理する貸館管理型であり、ドイツの公立劇場は公演事業を行うために施設を運営するインスティテュート型であるという特徴がよくわかる数値になっている。なお、人件費についても調べたが、芸術系、技術・管理系の職員とも平均すると一人当たりの年間経費はほぼ同じで、円換算で720万円程度となっている。ただし、非常勤の人数がどのように総人件費に影響しているか詳細がわからないため、実際にはもっと低い可能性もある。

上記のように、ドイツの公立劇場においては、貸館を一切行わず、プログラム提供型機関として、1年を通して活動を行っており、そのために、管理系経費に対して倍程度の制作系経費を使っていることがわかる。倍とは言わないまでも、少なくとも、管理系経費と制作系経費をほぼ同じくらいに支出するプログラム提供型機関の運営が日本においてもできないのだろうか。ここでは、それを目標とする事業の組み立て方と施設の規模を考察してみたい。

それでは日本における貸館を行わないプログラム提供型施設の在り方を考えてみよう。3-9章において「1)貸館を一切行わないで、地域のアーティストが地域の観客に向けて理想的な形で質が高い作品を作り提供する、2)劇場は一定の休暇期間は除き、基本的に毎日開場し、毎日お客さんを迎え入れる、3)単に舞台作品を提供するにとどまらず、アウトリーチやワークショップなどアーツコミュニケーション活動を積極的に推進する、4)地域のアーティストと施設の制作担当が協働する舞台芸術創造のオープンシステムを基盤として、それぞれの負担がコンパクトで持続可能になるようにする、5)舞台芸術の創造活動に必要な諸空間はしっかり備えつつも、1作品複数回の公演を前提に客席規模を可能な限りコンパクトに設定する、という前提条件を仮定した公立文化施設の在り方が、事業運営のシミュレーションなどを行いつつ、お互いの利害を調整し、話し合いの中で歩み寄ってゆく計画プロセスが創れないだろうか。」と提案した。これを前提として、その具体的な事業運営シミュレーションを行う。

基本的に地域のアーティストとの連携による舞台芸術(音楽、演劇、ダンス等)の公演を中心に年間の活動が計画され、その事業は貸館運営ではなく、主催事業と共催事業で構成されるものとする。地域のアーティストとの連携ということは、経費の面では基本的に旅費、宿泊費を含まないということを意味する。兵庫県青少年芸術劇場のように専属の舞台芸術団体を持つことも考えられるが、ここでは、「コミュニケートする劇場」としての機能を考えて、地域の舞台芸術団体との連携によって事業が組み立てられるオープンシステムを想定する。ただし、クローズドな劇団等を持つ可能性は否定するものではない。ここではあくまでも地域に存在する外部の舞台芸術集団との連携で作品創造を行うという考え方に基づいて、制作経費の算出を行う。

施設の在り方はソフトの組み合わせによって計画されるが、できる限りコンパクトな施設を想定する。主催事業、共催事業による施設運営とするため、施設使用料は基本的に想定しない。このような前提にたって、具体的な公演事業を想定すると予算規模はどうなるだろうか。舞台芸術にはいろいろなジャンルがあるが、とりあえず、演劇やダンスを中心に考えてみよう。

舞台芸術の創造経費は出演者の人数、水準、舞台美術や衣装の多寡、照明、音響、映像などの技術系の機材の量や技術者水準などで大きく変動する。オペラやバレエなどは大きな予算規模が必要である。ここでは、まず、岡崎市民会館が一つの作品の制作にかけられる費用である500万円から700万円を想定して、公演に必要な経費を計上してみる。出演者10名の演劇を想定した初日までにかかる費用(施設利用料は除く)の推定をしてみよう。

  1. 出演料:稽古期間出演料(初演1日分も含む):1,200円/時間・人、稽古実日数30日、1日当たりの拘束時間6時間として1,200×30×6×10+10×16,500円(初日出演料)=2,325,000円
  2. その他の経費:作曲・戯曲編集等300,000円、調律費16,500円、演出費540,000円(30日×2,000円×9時間 稽古時間より長く設定)、舞台監督費200,000円、映像デザイン料 300,000円、制作費150,000円、演出助手費150,000、著作権料20,000円、大道具費300,000円、衣装小道具費 200,000円、舞台スタッフ費(仕込みばらし)200,000円、照明費550,000円、音響費330,000円、映像費320,000円、美術デザイン料200,000円、交通費・宿泊費(メインスタッフは一部遠方を想定)150,000円、通信費30,000円、広報費100,000円、チラシ・ポスター・プログラムデザイン150,000円、プログラム等印刷費125,000円、録画費100,000円:小計4,431,500円

出演料とその他の経費の合計は6,756,500円である。この支出に対して、赤字にならない観客数はどうか。入場料金を一人当たり3,000円に設定すると、チケット購入者が2,253人を超えると黒字になる。すなわち、2,300席ぐらいの大きな劇場で満席にすることができれば黒字公演にすることができる。しかし、岡崎市のような中核都市で、このような大規模劇場を作り運営することは無理が大きい。岡崎市民会館の大ホールは現在1,100席の規模である。地域の観客が演劇等を理想の形で鑑賞するには、まだ、少し規模が大きいほどである。700万円規模の制作費に見合ったホールのキャパシティは、演劇やダンスという制作の内容を考えると、理想的な鑑賞条件で観客を入れることができる劇場規模は、施設をコンパクト化するという方針も踏まえると、800席から400席程度であろう。劇場のキャパシティを常に満席にすることは難しい。そこで、標準的に採用されている値として入場者率75%とする。すると、1回の公演のチケット販売可能性は600枚、あるいは、300枚となる。すなわち製作費が公演回数を増やしても変わらないとするならば、損益分岐になる入場者数2,253人を超えるには、800席の劇場では4回、300席の劇場では8回の公演が必要になる。しかし、残念ながら、実際の制作費用の構造はそう簡単ではない。追加公演を行うと、その追加公演のために、新たな経費が発生するからである。

そこで、公演1日追加ごとに増える費用を推定してみよう。製作費のうち、増える要素は、出演者の出演料、舞台監督費用、技術関係費用である。例えば出演者10人、舞台監督1人、舞台監督助手1人、大道具作業アルバイト4人、照明オペレーター1名、照明作業アルバイト4名、音響オペレーター1名、音響アルバイト2名、映像オペレーター1名、映像アルバイト2名、楽屋スタッフ2名、表方スタッフ1名が公演の継続に必要だとする。出演者10名に、スタッフとして雇用される人数は8名、アルバイト12名として、出演者・スタッフには1日33,000円、アルバイトには時給1,000円で10時間拘束とすると、出演者謝金330,000円、スタッフ謝金264,000万円、アルバイト謝金120,000円、その他の経費(著作権、消耗品費など)100,000円となる。すなわち、1公演ごとに追加される経費は814,000円(初期経費の12%)となる。800席の劇場で75%の観客動員を行うと追加公演では、1回あたり、180万円の収入となり、400席の劇場では90万円の収入となる。1回あたりの収入が、1回の追加公演の経費を上回っていれば公演回数を多くすれば多いほど、収支は改善することになる。

ここで、上記の公演経費を前提として、もう少し普遍的な計算をしてみよう。作品の制作と公演の継続、観客動員数、客席規模との関係を簡単な数式を使って示す。まず、作品の制作と上演のすべてにかかる費用をYとしよう。そして、制作開始から初日までにかかる初期費用をA、初演以後、同じものを継続して行うために必要な1公演当たりの追加費用をB、公演を継続する回数をxとしよう。すると1式) Y=A+B(x-1)が成立する。

同時にYは、そこに投入される助成金・補助金・寄付金等の総額Cと一人当たりの入場料金Dと観客動員数zの関数として2式) Y=C+Dzで表される。また、観客動員数zは劇場のキャパシティE、公演日数x、入場者率mの関数として3式 )z=Exmと表される。1式のzに3式のExmを代入し、1式と2式を合わると、C+DExm=A+B(x-1)となりx=(A-B-C)/(DEm-B)と変換できる。

母数は入場料金とホールのキャパシティ、そして入場者率を掛け合わせたもの、つまり1回の追加公演における収入から1回の追加公演にかかる費用を引いたものになる。分子は追加公演に初演1公演を足したものもし、追加公演収入が追加公演経費よりも多くなれば、この数式は成り立たない。その時はさらなる追加の助成金・補助金・寄付等が必要になる。このような状況は極力避けねばならない。

ここで、先に試算した公演規模を当てはめよう。初演までの初期経費は6,756,500円、追加公演経費を1公演当たり814,000円/日とする。劇場規模はそれぞれ400席、800席、入場者率を75%に設定すると、1公演当たりの観客動員数は300人と600人である。

試算1):劇場規模400席、1席当たり3,000円の場合

x=(6,756,500-814,000)/(3,000×300-814,000)=69回となる。
つまり初日を含めて69回公演が実施できれば、収支をほぼ±0にすることができる。ただし、この公演回数を実施できるだけの観客動員が必要である。次に助成金・補助金・寄付金等がある場合を考えてみよう。仮に300万円の助成金・補助金・寄付金等があれば35公演、400万円の助成金・補助金・寄付金があれば23公演が損益の分岐点になる。また、仮に追加公演で発生する費用を814,000円から750,000円に抑えることができ、助成金・補助金・寄付金を400万円得ることができたとする。そうすると1回の追加公演で15万円回収できるので、初日を含め14回公演が損益分岐点になる。この時の観客動員数は初日も含めると4,200人である。このような前提条件を設定すれば、400席程度の小劇場において、600万円規模で作品を制作し、最後の追い込み作業(舞台への技術準備、舞台稽古等)に半月程度劇場(舞台)を使い、残りの半月を公演に使用するという1月ベースの連続上演を可能にする劇場運営のありようが見えてくる。もっとも、1月14公演を行い、毎月コンスタントに4,200人を動員することは非常に難しいのだが。

試算2):劇場規模800席(入場者率75%)、1席当たり3,000円の場合

劇場規模を800席として入場者率を75%とすると、助成金・補助金・寄付金がない場合の損益分岐点になる追加公演数xは(6,756,500-814,000)/(3,000×600-814,000)として初日を含めて6回となる。必要な観客動員数は3,600人である。つまり、劇場のキャパシティが大きければ大きいほど、効率的に公演を追加することが可能になる。舞台芸術関係者や興行者が大きな劇場を希望する理由はここにある。ここで、400万円の助成金・補助金・寄付金等があれば、1回追加公演(初日を入れて2回公演)で採算は∓0となる。動員する観客数は1,200人である。200万円の助成金・補助金・寄付金等がある場合には、初日を入れてほぼ4回公演で採算が取れることになる。動員する観客数は2,400人である。試算1)に比べて、公演回数も、必要な観客動員数もより現実的に実現できそうな数値に近づいてくる。そして、この場合の劇場運営の方法は、1作品に400万円の補填を行うと仮定して、1週間サイクル、つまり、週の前半は機材や道具の仕込みと舞台稽古にあて、土日に公演を1回ずつ行い、観客動員数1,200人を達成するというスタイルが採用できる。あるいは、補填を200万円と考えると、仕込みと舞台稽古により時間を与えて、1週間サイクルで、土日各2回公演を繰り返し、観客動員数2,400人を達成するというスタイルを採用することができる。

もちろん、実際の舞台芸術公演の制作は、出演者の出演料、使う機材や道具の量や質、スタッフの人数によっても大きく異なり、上記の試算を普遍的に当てはめることはできない。しかし、考え方の目安にすることはできるだろう。舞台芸術作品の制作において、初演までの制作予算700万円弱というのは、高すぎる数値ではない。1千万円以上の製作費がかかるケースも少なくない。オペラなどの大掛かりな公演では、出演者も膨大になり、舞台装置や照明、音響、映像のデザインにも多額の費用がかかり、また裏で働くスタッフの数も大きく膨れ上がる。数千万円以上の経費が掛かることもざらになる。当然、こうした公演に対しては、400席や800席の劇場キャパシティでは、大きな助成金・補助金・寄付金なしではどんなに頑張っても採算ベースに乗せることは難しいであろう。このような公演には、もっと大きな劇場のキャパシティが必要になる。しかし、こうした大規模公演を中規模都市で行うことは無理がある。むしろ、そうした公演は、例えば岡崎の場合は、名古屋などの大都市の大劇場に任せればいい。

余談になるが、ここで改めて、新国立劇場の時に起こった客席規模論争を思い出す。大きなキャパシティで、オペラなどの公演を何日も続けることは日本の現状では東京ですら難しい。新国立劇場をめぐっておきたキャパシティ論争は、助成金・補助金・寄付金などのあてを少なく見積もり、公演回数を減らして一度に大きな観客を集めたい民間の興行理論と、せっかく国立の劇場を作るのであるあるから、海外の公立劇場のように、公的資金の導入を前提に、客席数をコンパクトにして良い鑑賞条件と制作条件を整えることを優先しようとする考え方のぶつかり合いであったのである。上記の数式は、この論争の根っこを良く表している。当時は、舞台芸術の創造と社会との関わり方についての議論が足りず、この辺りの腰の据え方が国にも舞台芸術関連団体側にも希薄であったことが混乱に拍車をかけたように思う。

さて、試算1)と試算2)との比較で分かるように、確かにキャパシティの大きな劇場では資金の回収が行いやすい。しかし、先にも述べたように、公演を長くやればやるほど、その公演に参加する出演者は熟練し育つ。出演者の雇用期間を増やし、地域に生活しながら、より多くのアーティストがプロとして活動できる環境を整備することにもなる。また、お客さんにとっても小さい劇場は、出演者とお客さんの距離が小さくなるため、感動を受けやすくなる。また、公演回数が多くなれば、忙しい人にとっても観劇のチャンスを広げることにもなるだろう。すなわち、地域産業として舞台芸術を見た場合、効率的には悪いが、公演環境の継続性を作る意図を込めて、小規模劇場を使って長い公演期間を採用するという考え方もあり得るのではないだろうか。即ち、一概に試算2)の方が、試算1)と比較して効率的だからそちらの方が良いとは言えない。それが公立文化施設での舞台芸術公演の難しいところである。

海外では、さらに、観光産業の大事な要素として劇場が位置づけられている。そして、2、3泊する観光客としての観客に対して、毎日異なる演目を提供することを前提に日替わり公演のレパトワール・システムが組まれている。このようなシステムは、さらにハードルが高い。毎日演目を入れ替えるためには、裏で舞台装置や照明、音響などのセッティングを毎日やり直さなければならないからである。レパトワール・システムの劇場では、午前から午後にかけて新しい演目の舞台稽古や技術リハーサルなどが行われ、夕方からは毎夜異なる演目のセッティングが行われる。こうした、フル稼働の劇場においては、舞台スタッフは朝8時ぐらいから夜12時ぐらいまで2交代制、3交代制で勤務している。こうした劇場のシステムを採用しようとすると、毎日の公演にかかる経費は著しく増加する。残念ながら、そのような環境下での経費試算は、国立劇場以外には難しい。

続いて音楽系の公演も検討してみよう。演劇中心のパブリックシアターを考えるときには必ずしも必要ないが、中核都市クラスの都市規模においては、貸館運営を行わないパブリックシアターとしては、場合によっては音楽系の公演を考えなければならないだろう。その場合、若手ソリストを配した地域の中核プロオーケストラによる中規模公演を想定してみたい。音楽系公演の場合は、複数日の連続演奏会は慣習的になく、原則1回限りの演奏会である。楽団を抱えていない前提なので、指揮者、ソリスト、楽団員を丸ごと委託する方法を考える。岡崎市民会館のこれまでのクラシックコンサート事業などの事例を参考し、委託費を550万円と想定する。必要な経費は、施設使用料は除き、広告宣伝費、通信費、消耗品費などになる。それらを合計して60万円とする。必要な事業費は610万円である。入場料は演劇と同じ、3,000円と仮定しよう。600枚チケットを販売できるとすると、180万円である。430万円の補填が必要になる。この事業費設定は、クラシックコンサートの例であるが、ポップス、ジャズその他の演奏の場合にも、同様の予算規模を仮定してみたい。クラシックコンサート、ジャズコンサート、ポップスコンサートなどを同じ事業規模、同じような観客動員数とチケット価格で織り交ぜ、毎月1回程度、年10回行うと仮定しよう。事業規模で、6,100万円、必要な補填額は4,300万円である。

上記のような規模の音楽系イベントは400人規模の施設では難しいだろう。そこで、400席の空間の前舞台をコンサートスペースとして使用し、客席規模を小さく使うiv設定、あるいは、別の小さな公演スペースを用意し、岡崎市民会館のサロンコンサートの事例を参考に、地域の音楽家と協働した小さなコンサートをできるだけ多くの回数を行うことを想定してみたい。それは小編成室内楽中心の企画である。岡崎市民会館サロンコンサートを参照として、そのままの場合と公演料等を理想に近づけるために倍増した値を設定してみる。

  1. 企画料 33,000円 外部企画コーディネーターへの謝金
  2. 出演料 一人33,000円 出演者2人の場合、66,000円 出演者4人の場合132,000円
  3. 交際費(弁当代) 1,600円(2人)、3,200円(4人)
  4. 調律費 16,500円
  5. プログラム作成費 4,500円
  6. 事務費 10,000円

1~6までを合計すると、出演者の数に従って、131,600円(2人出演者)、165,400円(3名)、199,200円(4名)、233,000円(5名)となる。仮に出演料を半額(16,500円)に設定した場合には82,100円(2人出演者)、99,400円(3名)、115,980円(4名)、133,280円(5名)となる。

さらに次の経費が必要になる。
ポスターチラシは1月単位で複数の公演を纏めて作成するとすると、

  1. チラシ印刷費 85,000円 A3版二つ折り2万部
  2. ポスター印刷費 45,000円 B0版20部
  3. チラシ・ポスターデザイン料 50,000円
  4. 郵送料 案内状 1000枚×84円=84,000円

即ち、7~10までの諸経費の合計は264,000円となる。

ここで、毎週2回(ひと月8回)コンサートを実施すると仮定して、5人出演1回、4人出演1回、3人出演2回、2人出演4回と仮定すると、出演者関係経費は、1,289,400円(出演料半額の場合:776,460円)となる。さらに1月ごとに広報費=264,000円がかかるため、1月単位の経費は合計1,959,800円(出演料半額の場合:1,040,460円)となる。
12か月公演を行うと仮定すると年間96公演で、合計23,517,600円(出演料半額の場合:12,485,520円)かかる。

平均100人の入場者として
500円料金で 500×100×96=4,800,000 収支比率=20%(出演料半額の場合:38%)
1,000円料金で 1,000×100×96=9,600,000 収支比率=41% (出演料半額の場合:77%)
1,500円料金で 1,500×100×96=14,400,000 収支比率=61% (出演料半額の場合:115%)
2500円料金で 2,500×100×96=24,000,000 収支比率=102% (出演料半額の場合:192%)

上記の公演を実施するホールは120席程度の音楽専用ホール(平土間、段床可変)を想定する。出演料33,000円の場合、一人当たり2,500円に設定すると採算ベースに乗る。出演料16,500円の場合には1,500円の設定で採算ベースとなる。逆に、多くの人々にアクセスしてもらうためにワンコイン設定とすると、18,717,600円の助成が必要になる。出演料半額の場合には7,685,520円の助成が必要である。なお、この試算は基本的にクラシックコンサートをベースに試算したが、同規模のジャズや伝統芸能のコンサートなどにも対応可能と考え、実際のプログラムはジャンルを多様に想定したい。また、公演時間も昼の公演、夜の公演、土日祝祭日の公演、平日の公演などを織り交ぜて考えてゆくことを期待したい。また、ジャズ等の公演においては、料金設定を変更して、ほろ酔いコンサートなどの飲食可能なものを想定することもできるだろう。

つぎに、これからのパブリックシアターに必要不可欠なアートコミュニケーション事業について検討しよう。これはすでに、3-10章にて検討をしているので、ここでもその前提を採用したい。すなわち、アウトリーチの活動経費として、アーティスト2名×3万円、アシスタント1名×1.5万円、1回あたり諸経費1万円として、合計75,000円、1日1回として年間300日行うとすると年間に必要な経費は2,250万円となる。なお、制作にかかるスタッフの経費は施設管理運営費に含まれるとして、ここには計上しない。

筆者は、これからのインスティテュート型公立文化施設の在り方を「コミュニケートする劇場」としたが、そこでは、積極的に地域と連動し、参加型アクションを紡ぎだす「開かれた」事業体として、地域のアーティスト、文化芸術団体、商工会などとのコンスタントで多様な事業連携が必要になる。アートコミュニケーション事業は、まさにそのような枠組みの中で創られるべきものであろう。積極的に、予算的な裏付けをもって展開してほしい。そのために、アウトリーチ活動に加えて、さらに、地域の商工会、その他と連携して、まちづくり関連で自由な連携事業を考える地域連携出張アート事業支援として1,000万円(出向職員による自由なプロジェクト費)を想定しておきたい。

ここで、上記の事業規模を考えた、施設規模vを推定しよう。

試案1)音楽系イベントと演劇・ダンス系イベントを実施する800席の多目的仕様の主ホール、音楽中心の120席~150席程度のロールバックスタンド型の客席が収容可能な平土間の音楽プレイルーム(音楽ワークショップも実施)、演劇ダンスワークショップ用の演劇プレイルーム、主ホールの創作に対する創作スタジオ、イベントもできるレストラン、そして、出張ワークショップを展開するために小型トラック(ワークショップキャラバン)の駐車スペースを設置する。これが施設イメージ1である。

試案2)演劇・ダンス系イベントを実施する400席の多目的仕様の主ホール、音楽中心の120席~150席程度のロールバックスタンド型の客席が収容可能な平土間の音楽プレイルーム(音楽ワークショップも実施)、演劇ダンスワークショップ用の演劇プレイルーム、主ホールの創作に対する創作スタジオ、イベントもできるレストラン、そして、出張ワークショップを展開するために小型トラック(ワークショップキャラバン)の駐車スペースを設置する。これが施設イメージ2である。

試案3)演劇・ダンス系イベントを実施する400席の多目的仕様の主ホールを設置し、その前舞台を使って音楽中心の120席~150席程度の音楽コンサートを実施し、演劇ダンスと音楽系ワークショップ兼用のプレイルーム1室、主ホールの創作に対する創作スタジオ、イベントもできるレストラン、そして、出張ワークショップを展開するために小型トラック(ワークショップキャラバン)の駐車スペースを設置する。これが施設イメージ3である。

ここで上記3つの施設規模を算出する。共通する前提として、ロビー、ホワイエ、情報コーナー、喫茶飲食スペースなどは人々がふらっと訪ねてきても居場所が確保できるようなオープンでゆったりした空間を用意するものとする。結果を別表として示す。

試案1)の800席劇場案では延べ床面積は12,935㎡、試案2)の400席劇場案では9,940㎡、試案3)の400席劇場のコンパクト版では9,103㎡である。これらの規模算定は、筆者が一般的な公立文化施設の基本設計に採用している数値であり、実績に基づいた妥当な数値である。(表を参照)

ここで、制作系経費を含まない施設管理経費を推定してみよう。舞台芸術の上演等の事業費を除いた公立文化施設の施設管理経費は近隣公立文化施設の事業報告書を参考に推定すると、延べ床面積1㎡あたり2.0万円程度と推定されるvi。この値を採用しよう。この費用には、施設の管理に必要な諸経費と貸館対応で必要な人件費も含まれている。すなわち、試案1)では25,870万円、試案2)では19,880万円、試案3)では18,206万円の年間施設管理経費が必要になるということになる。

さて、ここで中規模都市におけるコミュニケートする劇場の舞台芸術の創造環境を考えてみよう。日本の場合、音楽家は、子供を主な対象とする教室を開いたり、学校の音楽教師などをしたりすることができるので、全国的に分散分布の傾向にある。身近なところで岡崎市を例に考察してみよう。岡崎には岡崎音楽家協会のようなプロの音楽家で構成される舞台芸術団体が存在しており、岡崎市民会館のサロンコンサートでも活躍してもらっている。また、対象の音楽家を近隣の都市にまで範囲を広げれば、多くのプロフェッショナルの参加を得ることができるだろう。従って、上記にあげたコミュニケートする劇場のコンサート環境を出演者として満足させることは難しくないだろう。また、ワークショップなどの企画も十分に対応できるであろう。おそらくほかの中核市においても同様の環境にあるだろう。

難しいのは演劇やダンスの公演である。岡崎の場合、地域に長く根を下ろしている地域劇団は1劇団であり、鑑賞型の企画をしている演劇鑑賞会が一つ存在している。しかし、地域劇団は、ほかに仕事を持つアマチュアを中心に構成されており、年間、毎月地域で新作を続けてゆく体力はないだろう。この事情はどこの地方自治体でも似たり寄ったりではないだろうか。これをどう克服するか、それが地域のプログラム提供型機関に大きくかかってくる課題になるだろう。

次に観客動員について考察してみよう。コミュニケートする劇場として、そのサービスの対象を小学校、中学校、高校の生徒を対象とした青少年劇場の色彩を強く持つことを考えたい。公共財として戯曲の蓄積を考える場合、学校教育との連携は重要であると考えるからである。再度、岡崎市を例にとろう。

小学校(30年度)の学校数48、学級数875であり、児童数は男11925人、女11096人、合計23021人である。一クラス当たり平均26.3人、各学年平均146クラス、1学年あたり3837人、1学校1学年あたり80人となる。中学校については、学校数23、学級数366、児童数は男5664人、女5399人、合計11063人である。一クラス当たり平均30.2人、各学年平均122クラス、1学年あたり3688人、1学校1学年あたり160人となる。さらに、岡崎市には、高等学校としては7つの高等学校と4つの私立高等学校がある。高等学校は市の管轄でないので、オプションとして考え、小学校、中学校を対象とする企画を考えてみよう。小学校、中学校ともに1学年3500人以上の生徒数がある。

仮に小学校向け(高学年)の作品1本、中学校向けの作品1本を地域の劇団を中心に制作依頼をし、さらに1本を大人向けの企画として考えるものと仮定する。即ち、地域劇団に年間3本の作品の制作を依頼するのである。さらに、名古屋周辺まで対象を延ばすと、複数の劇団が活動をしている。彼らとの連携により、年間6本の作品の制作を考えてみたい。岡崎には演劇鑑賞会があるので、場合によっては、彼らとの連携も想定できるのでないだろうか。また、ダンスは、光ヶ丘高等学校や岡崎女子短期大学・大学などの活動が有名であり、岡崎市民会館はその連携を現在始めているところである。また、これらの学校を卒業してプロとして活動しているダンサーや振付家もおり、彼らとの連携も考えられる。そうすると、学校やOB、OGとの連携による公演を1回、関連のプロによる公演を2回開催することが可能でないだろうか。即ち、合計すると、年12回の公演を開催することができると考える。

次に、これらの観客動員を考えてみよう。現在の観客動員力よりは、少し多めの努力目標も含んで考えてみる。小中学校の公演については、1学年、すべての生徒が鑑賞するとすると、3000人の動員を考えることができる。高校生と大人による公演も3000人見込むことができるとする。地域劇団との連携で制作する3つの公演がこれに該当するであろう。名古屋周辺の連携では、会員制度などを作り、思い切って、1800人ぐらいの動員ができると考えてみよう。ダンスの公演については学校との連携で観客を集めることも視野に入れて、それぞれ1200人程度の動員が可能と考えてみる。

800席の劇場で75%の入場者率の場合、年12作品の制作をするとして、3000人を期待する3本の作品でそれぞれ5回公演(追加公演4回)、1800人を期待する6本の作品でそれぞれ3回公演(追加公演2回)、ダンスの公演の時には1200人動員を期待する3本の作品でそれぞれ2回公演(追加公演1回)を想定する。事業規模としては、675万円の初期経費と公演回数によって加算される額を81万円と設定する。

この制作費の総額は約10,287万円、想定される観客動員数は23,400人である。一人当たり約4,400円を考えれば損益は±0になる。これまでの計算では一人当たり3,000円を想定していたので、その場合の収入は7,020万円となり、約3,270万円の持ち出しとなる。ただし、小中学校の公演の入場料金は子どもから徴取するのではなく、基本的に学校教育の費用として行政が負担すべきであり、その部分を補填するとすると、2本の作品ではほぼすべて生徒の参加、高校生は半分参加とすると2,500万円の追加補填が生じる。即ち年間に必要な補填額は5770万円となる。また、ダンスなどでは、大学生、高校生などの料金は安いチケットを販売する必要があり、これに対して、少し有名な出演者が出る場合には、4,000円、5,000円のチケットを販売することも可能である。すなわち、価格設定はバリエーションが必要になるが、ここではそうしたバリエーションは全体では平準化できると考えて、できるだけ単純に上記の数値を参考値とする。

400席の劇場でも動員数は変わらないとすると、地域劇団との連携の公演は10回公演(追加公演9回)、広域劇団との連携公演は6回公演(追加公演5回)、ダンスの公演の場合は4回公演(追加公演3回)になる。ただし、この場合、ダンスの公演では、出演者が学校の生徒の場合は、公演回数を多くすることは困難かもしれない。この場合はOB、OGによる公演を主体にするべきだろう。このように連続公演の難しさはあるが、小劇場のほうが、主催事業による劇場の稼働率は大きく伸びるメリットがある。しかし、必要経費は公演回数が増える分、上昇し、総額約13,446万円になる。収入は同じ4,200万円なので、約9,250万円の持ち出しである。ここに小中学校と高校生の補填額2,500万円を加えると11,750万円の補填が必要になる。

同じく、800席の劇場において、クラシックコンサート、ジャズコンサート、ポップスコンサートなどを同じ事業規模、同じような観客動員数とチケット価格で織り交ぜ、毎月1回程度、年10回行うと仮定すると、先に見たように、事業規模で、6,100万円、必要な補填額は4,300万円である。

音楽プレイルーム、あるいは400席劇場の前舞台を使った小規模コンサート(サロンコンサート)を毎週2回行うとすると、出演料をコンパクトな現在の水準に設定すると、先に計算した通り、年間約1,249万円の事業費がかかり、ワンコインの入場料金を設定すると、約769万円の補填が必要になる。さらに、これにアウトリーチにかかる費用として、1日1回として年間300日行う想定で年間に必要な経費は2250万円となる。これに収入は発生しない。また、地域の商工会、その他と連携して、まちづくり関連で自由な連携事業を考える地域連携出張アート事業支援として1000万円 (出向職員による自由なプロジェクト費)を追加する。

即ち、
1)800席の主劇場を持つ施設の場合は
劇場公演制作費10,290万円で必要な補填額は学校行事の補填も含めて5770万円、劇場コンサートの制作費は6100万円、補填額は4300万円、小規模コンサート(サロンコンサート)の制作費は1250万円で補填額は770万円、アウトリーチに2250万円、地域連携出張アート事業に1000万円となる。すなわち、年間の総制作費は20890万円、想定される必要補填額は14090円である。
2)400席のコンパクト施設の場合は
劇場公演制作費13450万円、補填額は11750万円、劇場コンサートは行わないこととして、小規模コンサート(サロンコンサート)の制作費は1250万円、補填額は770万円、アウトリーチに2250万円、地域連携出張アート事業に1000万円で、年間の総制作費は17950万円、総補填額は15770万円となる。つまり、規模が小さいほうが、事業費の効率から見ると確かに割が悪い。

しかし、800席劇場案では施設の基本維持管理経費に25,870万円、400席劇場でコンパクトな案では18,206万円の年間維持管理費が必要になる。それらを総事業費としてまとめると、800席劇場の施設管理も含めた年間総事業費は46,760万円、チケット収入額を引いた支出額は39,960万円となり、400席コンパクト案では、年間総事業費は3,6156万円、チケット収入を引いた支出額は33,976万円となる。事業の枠組み自体を縮小させているが、トータルに考えると年間総事業費で1億円以上の圧縮になる。施設規模の圧縮が大きく年間収支に影響することはよくわかってくださると思う。

現在、各地の公立文化施設において、1400席、600席、300席などの大中小のホールを設置し、延べ床面積でも2万㎡を超える施設を設置している地方自治体も少なからずある。こうした施設の維持管理経費は1㎡あたり2.0万円を仮に代入すると総額4億円になる。こうした施設の維持管理を考えると、上記で考えるように施設をコンパクトにして、子どもや青少年の舞台芸術鑑賞やワークショップ参加を大きなターゲットにしながら、広く市民にも鑑賞機会やワークショップ参加機会を提供し、さらに、文化芸術にアクセスすることの難しい人々や社会から疎外されている人々へのアクセスを考慮する社会包摂機能をも組み込む仕組みを考えれば、そのサービスが社会に与える影響はおそらく期待以上のものとなり、その効果を背景として施設の維持管理経費とほぼ同等の制作費を計上する新しいタイプのインスティテュート型公立文化施設は十分に成り立つと思うのである。積極的な事業予算の手当てを背景とした上記のような意欲的なプログラムは、地域の青少年の文化芸術教育、社会包摂への展開、文化芸術産業の振興、そして、ひいては、次の時代の地域の活力を整える創造都市の展開として、貸館施設よりもはるかに大きなインパクトがあるだろう。

最後に、再度、「ことを紡ぐ」ために必要不可欠な地域のアーティスト、文化芸術団体、企業との協働を考えておきたい。既に、主体的なプログラムの設定においては、参加型アクションを紡ぎだす「開かれた」インスティテュート(コミュニケートする劇場)として、地域に根差す文化芸術団体との連携を積極的に展開すべきであると提案した。基本的にプロフェッショナル・リージョナルシアター型のプログラム提供型機関の最終的なユーザーは、客席に座る観客、あるいはワークショップやアウトリーチに参加する人々である。参加型アクションを紡ぎだす「開かれた」インスティテュート(コミュニケートする劇場)においては、アーティストや文化芸術団体は市民にアクティビティを提供する企画側である。何のためにその事業が必要なのか、どのような効果を地域にもたらすのか、未来に何が残せるのか、その事業がどのぐらいの広がりを作り出すのか、そうしたことをきちんと企画にかかわるアーティスト、文化芸術団体、企業が相互にコミュニケートし、目標を共有し、地域の人々に活動を提供することが最も大事なことである。今までの公立文化施設では、貸館運営として利用に介入することを是とせず、この大事なプラットフォームの役割を忘れてきた。しかし、ここで考えたいのは、本当にそれでいいのかということである。表現の自由は尊重しなければならない、しかし、その表現を支えているのは地域の人々であり、地域の様々なネットワークなのである。そして、地域においてそのインフラを支えてきたのは公立文化施設なのである。そして、そのために、公的資金が投入されているのである。地域のアーティストや文化芸術団体はそのことを忘れてはならない。相互に地域の文化芸術環境がよりよく発展し、より多くの人々が文化芸術活動に親しんでもらうようになるために、地域の仕組みづくりに協力をし合うことが大切なのではないだろうか。戦後直後に各地で公立文化施設が建設された折には、地域の文化芸術団体や地域の商店街などが熱い思いで文化施設づくりに奔走したことを改めて思い起こしたい。

上記のような考えに基づくのであれば、地域の文化芸術団体、興行者、あるいはアクティブな市民や市民団体が自ら多様な企画を持ち寄り、公益的な視点から市民に開かれた事業として提案する場合には、公立文化施設は単なる貸館ではなく、積極的な連携関係をつくって協働を図るべきではないだろうか。

例えば、公募で優れた企画を求め、好ましいと思われる提案であれば、それらの提案を適切に評価することができる委員による開かれた事業委員会のようなものを構築し、適切に判断した上で、貸館の施設利用料金にあたる部分を施設側が負担し、舞台の制作費は公演側が持ち、入場料収入も公演側が受け取るというような形、あるいは、公演を外部の制作者に任せ、施設側が公演側から貸館収入に相当するような額を受け取る形などいろいろな連携形態を検討すべきであろう。こうした多様な事業形態を可能にするために、毎月先着順で利用を受け付けるような貸館の制度に代わって、定期的に市民に広くサービス可能な公演提案を受け付け、有識者による委員会などを通して、持ち込み企画の共催化を決定するような方法を採用することで、地域に開かれたプログラム提供型の舞台芸術施設運営ができるのではないだろうか。そして、可能であれば、こうしたプロジェクトにより広くからの賛同を得るためにクラウドファンディングなどの仕掛けを導入するはどうだろうか。こうすることで、「ことを紡ぐ」劇場として、地域の舞台芸術団体と公立文化施設、そして、それを支援する市民の広いネットワークが構築され、貸館方式では得られないような充実した舞台芸術活動ができるようになるのではないだろうか。

上記に示した考察は、物事を簡単にするために、かなり強引に単純化して事業を組み立てている。実際の「ことを紡ぐ」プログラム提供型の舞台芸術施設計画においては、オリジナルなミッションに基づいたきめ細かな計画が必要であろう。これまでのように、施設設計の前段で、上記のような事業計画を想定することで、新しい公立文化施設の計画づくりが見えてくると思う。今後、一つでも良いから、こうしたプロセスを採用してくれる計画が生まれることを期待したい。

  1. ドイツの劇場の経費と職員経費
  2. 2020現在、為替が大きく変動しているが、1EUR125円と換算した。
  3. 長久手市文化の家年報、 http://www.city.nagakute.lg.jp/bunka/bunka_ie/documents/2018nenp.pdf、accessed 2020.08.05
  4. 長久手市文化の家の風のホールは、298席の規模であるが、プロセニアムアーチ直後に音響反射壁を下ろし、前舞台を舞台として使用することで、客席数192席の小コンサートホールに転換できる。
  5. 財団法人地域創造「公 共ホールの計画づくりに 関する調査研究」( 年、p.14)によると、人件費を含まない公立文化施設の維持管理経費は平均値で1㎡あたり15,100円という結果が出ている。人件費は長久手文化の家などの事例を参考に1㎡あたり約5,000円程度を想定し、合計の維持管理費を1㎡あたり2万円と推定した。ただし、人件費は事業内容によって大きく変動する可能性がある。
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