芸術監督の部屋 第3部:プログラム提供型機関を作る

3-12 動きの身軽なアーツセンター型小規模プログラム提供型機関を創る

次にアートセンター型のプログラム提供型機関について考察しよう。過去のしがらみにからめとられることなく、多様なコミュニケーションを紡ぎだす新しいプログラム提供型機関を設置するには、これまでの公立文化施設の内容と重ならない新しい活動を中心に据えた小さな施設から出発することもやりやすい。

多くの地方自治体では今後人口減少が進み、大規模文化施設を維持管理してゆくことは難しくなってくる。残念なことではあるが、いずれ、取り壊しをやむなしとする自治体も出てくると推測される。しかし、建築研究者でもある筆者はあえて主張したい。地域の文化政策は施設をつくり、管理維持することではない。その地域にどのように文化が根付き、それがどのように地域の人々の日常を豊かにし、明日への希望を支えることができるかを常に考え続け、それを支える活動や人づくりを継続的に展開することである。そのアクティビティを支える仕組みを考え、構築することが文化政策である。したがって、大きな文化施設を持つだけが文化政策ではないだろう。大きな施設を維持できなくても、大志をもって、しっかりしたアクティビティを継続できれば、地域の文化芸術活動に大きな影響を与えることができる。

現在、各地にある自発的に発生したアートセンターの活動はそのような希望を持たせてくれる。そこで、次のような小規模のアートセンターを大きな公立文化施設に代わる一つの例として提示したい。それは空き家利用型のアートセンターである。少子高齢化が進行している地域では、空き家がたくさん生まれている。中には、結構大きな敷地を持つ古民家もあるだろう。そうした古民家を賃貸で利用させてもらう。活動は教育・普及や社会包包摂を意識したアウトリーチ活動に特化する。例えば、1日一組2人のアーティストと一人のアシスタントのチームにより、1ヶ所の施設を訪問し、それを積み重ねて年間300日活動すると仮定する。塵も積もれば山となる。対象施設は、小中学校、幼稚園、保育園、あるいは医療機関や福祉関連施設、場合によっては更生保護施設などとの連携も考えられるだろう。賃貸する本拠地では、マネージメント業務とアーティストのレッスン、必要機材の政策やメンテなどの準備作業を行う。そのためのスタッフとしては、責任者(芸術監督)1名、アートマネージャー2名、技術スタッフ1~2名、事務1名の5~6名体制を想定する。アーティストは地域に在住する音楽家、舞踊家、役者、演出家などと継続的に連携する。

この種の小さなアートセンター型の活動は、社会に最初から広く認知されて生まれる性格のものではない。むしろ、ほとんど認知のないところからの活動開始になるだろう。そうした環境では、社会に認知されること、地域や様々な人々とコミュニケーションを紡ぎだすことが一番大きな仕事になるに違いない。「ことを紡ぐ」事業の展開である。このような活動を自ら生み出すことに大きな負荷がかかるであろう。NPO法人DANCE BOX事務局長の文(あや)さんは、ダンスボックスが大阪から神戸、新長田に移転して活動を再開するときの苦労を「地域の劇場を目指してお客さんがいないのなら自ら出向く」と吐露しているi。しかし、終局的な公立文化施設の目標は、地域において舞台芸術の未来を紡ぎ、地域の人々に親しんでもらう多様性がある幅広の環境を作ることであり、そこにこそ「ことを紡ぐ事業」の目標がある。「ことを紡ぐ」には、将来のビジョンをもった熱意のあるスタッフが必要であり、彼らの個性を最大限に生かすには、大きな組織よりは小さい組織の方がやりやすい。小さいアートセンターその点でも優位性がある。

この施設には、事務所以外にも、関心のある市民やアーティストのたまり場としての機能があっても良い。地域のアーカイブ機能も大事である。これらも「ことを紡ぐ」には大切な機能である。大きな設備は不要である。能力と意欲のあるスタッフとパソコン1台あれば展開できる。コロナ禍で学んだように、地域のアーティストや市民のネットワークを作りリモート作業を中心に展開することもできるだろう。そうした作業にかかわる多様な人たちが時々出会うためには、縁側や広間などがある少し大きめの古民家などはとてもいい環境を作ってくれるに違いない。小さくても日常的な出会いが生まれることが大事である。その脇にちょっとした蔵があれば、改修して練習場にもなるだろう。場合によっては、小さな練習場を新設してもそれほどお金はかからないだろう。

古民家でなくても、古くなった商店街のビルを借り受けることもできるだろう。中心市街地の活性化にはこの方法が適切である。できれば、商店街組合、地域企業、金融機関などと連携して先方採用の出向職員をアートによる地域掘り起しの研修生として受け入れたい。彼らには、アートによるまちおこしを自由な発想で手掛けてもらう。きっと期待を超える活躍をしてくれるだろう。

アートセンターの簡単な経費試算をしてみよう。もちろん概算である。

  • 賃料 30万円(月)×12か月=360万円
  • 光熱水費、通信費等 30万円×12か月=360万円

この賃料であれば、空き家として持て余している空間であれば、かなりの規模の空間を借りられるだろう。

  • 雑費 1万円・1日×365日=365万円
  • 機材更新費:1,000万円
  • スタッフ給与(一人平均500万円)500万円×6名=3,000万円(若いスタッフ中心)
  • アウトリーチ委託料:2,250万円(アーティスト2名×3万円、アシスタント1名×1.5万円)、1回あたり諸経費:1万円 合計75,000円 年間300日(1日1回)とすると2,250万円
  • 地域連携出張アート事業支援:1,000万円 (出向職員による自由なプロジェクト費)

これらを合計すると8,035万円となる。空き家の賃貸という方法で固定費をできるだけ減らし、小さいが継続して実施する事業を通してまちおこしを図ることができれば地域に文化の歴史を刻む活動が展開できるのではないだろうか。クラウドファンディングを積極的に活用すれば利用できる資金の枠組みはさらに大きくなるだろう。

  1. 文(もん)、第一部ゲストによる事例紹介、発表①、地域の課題を考えるプラットフォーム公開勉強会「“みんな”のロームシアター京都をめざして」、 https://rohmtheatrekyoto.jp/wp-content/uploads/1f83e6377d8ecec6e4cfa03d8ff17272.pdf、accessed 2020.7.7
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