芸術監督の部屋 第3部:プログラム提供型機関を作る

3-6 多様な空間を構築しこれまでにないサービスを開く

「開かれ」そして「創造性」がこれからの公立文化施設の運営においては、重要な鍵概念になることを述べた。ここで、もう一つ、施設空間の管理という面から、ぜひ、見直しておきたいことを示しておきたい。

これまでの公立文化施設では、レストランなど商業施設は公共施設の目的外使用空間として許諾の対象とされていた。それは、そこが公益性を目指す公立文化施設の中にあって、公益性と反する収益を上げる空間であると認識されていたためである。

しかし、本来、飲食できる空間や書籍がある空間で談話したり、情報交換したりすることは、劇場・音楽堂等の利用に付随するものであり、必要不可欠な行為ではないか。むしろ、これからの公立文化施設では、人と人との創造的ななつながりを重視するのであれば、今、企業の活動の中で、注目されている、いわゆる異業種間のコワーキングスペースのような空間、それはレストランや喫茶室、あるいは、談話空間であるが、そうした、空間のしつらえこそが、今までのレストラン・喫茶などの空間に代わるものである。

単に営利目的だからと、目的外使用空間として、ホール等の空間利用と業務上の分離をすることはその利用価値を殺してしまうのではないか。旧京都会館が改修を受けて、ロームシアター京都に再生した時に、新しい運営に挑戦をしたいという行政の判断もあり、あえて、レストラン・喫茶や書籍・情報スペースを、人々が集い、憩う機能を持った目的内使用空間として「パークプラザ」という新しい空間を創り出した。こうすることで、単なる商業施設ではできない、多様な専門的サービスを館内に複合的に展開できるようになっている。レストランなどを目的内使用施設と再定義するロームシアターの姿勢は、あたらしい仕組みを基本から考える方法として参考に値するものである。目的外使用から目的内使用に切り替えることは単に管理体制の変更にすぎないと思われるかもしれないが、ホール、練習室、会議室など、用途が定められ、空間的に区画される空間では、利用する人々も固定されがちであり、たまたま時間待ちしていたら、共通の友人によって面白い人を紹介されたというような偶然性を含め、新しい出会いによって生み出される多様で創造的なコミュニケーションは生まれにくい。レストラン・喫茶や書籍・情報スペースなどの刺激的な組み合わせは、そうした偶然の出会いを演出することができる。18世紀に生まれたフランスのサロンやイギリスのカフェは、階級を越えた新しいコミュニケーションが生まれたからこそ、あたらしい時代の民主主義というコミュニケーションの仕掛けが涵養されたのである。そうした出会いを涵養するような空間をどのように施設内に内包でき、また、それを創造的に管理できるか、ここにプログラム提供型機関の施設マネージメントの新しい方向性を見つけたい。ヒントは1)活動の多様化と重層化、2)得意とする分野の異なる組織体との運営連携である。

レストラン・喫茶は単に飲食をするという機能ではなく、重要なのは、そこで、いろいろな人が自由な時間に出会い、様々なコミュニケーションがうまれることである。筆者よりも年上になるが、かつて1950年代、60年代に音楽喫茶に通い、いろいろなジャンルのとがった人たちと出会った経験をもつ人は多い。あるいはジャズ喫茶などでは同じような趣味を持つ人が出会い、新しいセッションが生まれたりする。新しいところでは、食に興味をもつNPOが地域野菜を使った料理を提供したり、異なる分野の料理を得意とする人が日替わりで違う料理を提供したりするコニュニティレストランなども多くのネットワークや会話を創り出す可能性を持つ。レトロな音響機器や、古いレコードコレクションなどをしつらえ、スキルを持つ退職者やNPOによりユニークな運営をしてもらうというような可能性もあろう。さらには、情報空間との管理の連携やロームシアターのような書店との連携なども多様性を育む力を持つと思われる。これまでの常識にとらわれないあらゆる可能性を探り、プログラム提供機関としての新しい公立文化施設の心臓部となるような空間のしつらえと創造的運営ができないだろうか。そして、それらが、練習施設、貸室としない制作スペース(ワークショップルーム)、道具製作場などと有機的に結びつくことができれば、より豊かで活気のある場所が生まれるだろう。

実は上記のような兆候はすでに見え始めている。2-8章でも示した苫小牧市民ホール建設基本計画iにおいては、基本構想、基本計画の段階を進めるにあたって、活発な市民参加プロセスを展開し、ワーキンググループからは様々な事業提案を受け、それらの事業提案と関連させた空間の検討が行われた。そして、大きな事業コンセプトとして、育てる、集う、知る、関わる、繋ぐを掲げ、その活動に必要なスペースとして、活動スペース、鑑賞スペース、展示スペース、窓口スペースを設定し、そのマトリックスの中に、市民のワーキンググループなどで提案された様々な具体的な活動事例が配分されている。特に秀逸なのは窓口スペースを設定していることである。これは空間機能として設定されているが、実は、そこに示されているのは新しい活動のスキルである。例えばとまこまい文化講座、キッズ基金などは市民を巻き込んだ活動資金の調達提案であり、いきいきディレクターズ、ボランティアコーディネーター会議などは参加型の運営システムへの具体的な提案である。これはまだ計画段階であり、これからどのような具体的な形を纏って実現してゆくか見守りたいが、空間と活動の開かれを計画段階から構想し、これまでにないサービスを構想してゆく姿勢は、新しい公立文化施設の計画として注目に値する。

  1. ( 仮称 ) 苫小牧市民ホール建設基本計画 概要版、2018年3月
    http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/files/00041600/00041606/20180628142357.pdf、 accessed 2020.10
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