芸術監督の部屋 第3部:プログラム提供型機関を作る

3-5 新しいアート(社会的価値)を生み出す

「創造力」をメインキイワードに据えると、公立文化施設の活動での王道は「新しいアートの創造」である。1980年代に、公立文化施設には「創造型施設」への展開があった。例えば、世田谷パブリックセンター、彩の国さいたま芸術劇場、座・高円寺などがその好例である。創造型施設は、それまでの出来合の作品を購入する施設から、自らの施設の運営目標に合うオリジナルな作品を創るために、企画、稽古、リハーサルから本番までを通して行うことを目標とした施設である。どちらかというと稽古場や道具類のたたき場などを充実させたハード中心の提案に、それを運営するための組織を展開した事例であった。そこでは、大きすぎるホールへの反省もうかがえた。彩の国さいたま芸術劇場では当初2000席の大ホールが期待されていたが、それを、800席弱の大ホール、約300席の小ホール、600席の音楽ホール、150席の映像ホールのホール群に分解し、よりコンパクトな規模で創造性を高めようとしたところに特徴がある。

実は、新しい舞台芸術は、大きなホールからは生まれにくい。なぜなら、新しい舞台芸術を愛好する人々の人口は大空間を埋めるほど多くはないからである。大きなホールで少ない観客での公演は、どうしても白けてしまい、共感を得にくい。また、大きな舞台を埋めるためには大きな制作予算が必要になる。

自主制作を行う民間の演劇劇場は一般的に300席程度のことが多い。そして、実は、アングラ演劇、暗黒舞踏などが登場した空間はほんの100席程度の小さな空間であった。

最初から大きな劇場で、新作を世に問うことももちろん可能であろう。しかし、それができるのは大規模の広報宣伝も含む潤沢な予算と優れたスタッフ、アーティストをネットワークする限られた施設である。私が、ここで言いたいのは、そのような「特殊な劇場」のことではない。むしろ、人口数万、数十万人の中小規模の都市の公立文化施設においても、発想の展開で、面白い創造活動ができるということを言いたいのである。

今、最も注目を浴びているのは城崎国際アートセンターである。これは古い施設の大改修にあたり、演出家平田オリザらの音頭により、壮大なアーティストインレジデンス施設に模様替えをして、そこで滞在型の作品づくりをする運営に切り替えたものである。国際的にも非常に多くのアーティストがひっきりなしに滞在し、今では世界的に有名な施設になり、城崎温泉の活性化にも一役も二役も買っている。同様に神戸にはNPO法人が運営する120席の小劇場を有するDANCE BOXがある。ここも、大谷燠理事長のもとで、コンテンポラリーダンスに特化して、アーティストインレジデンスを中心に活動を展開している。

上記の事例はその中心になる人物が、並々ならぬ思い入れをもって立ち上げたものであり、その熱い思いなしでは成立していない。しかし、地域で創造することに対するヒントはいくつもある。まずは、中心人物を信頼し、その意思を尊重し、設置の目標を明確に定めていることである。そして、その目標にあわせて、中長期計画をつくり、プログラムを組み立て、周辺を説得し、スタッフ人材を登用し、具体の事業を主体的に展開するという、ソフト中心の仕組みづくりを行っているのである。公立文化施設では、ある種の中心人物に全体の計画を信頼し、委ね、それを支援し、ソフト中心の計画を遂行するという、成功するためには当たり前のプロセスが採用されにくい。行政の計画プロセスにおいては、おおむね、ある特定の人、それも行政外部の人の熱い思いは、公共性の名のもと、かき消されてゆき、結果に残るものは、形骸化された抜け殻のような計画である。中心的に熱意をもってプログラムを展開しようと頑張る人よりは、外側にいる無責任な批判に耳を貸してしまう傾向が強い。こうして、ユニークな展開をするプログラムが骨抜きになってゆく。特に、日本のこの行政の骨抜き過程は、1980年代の「創造型劇場」が登場した時代に比べて、強固になっているようにも思われる。これをどのように打破するか、地域が活性化するためには、非常に重要な組織改革の観点である。そのヒントは、芸術評価や芸術監督の存在で考察したように、ある立場の個人的な評価を、公共性のプロセスによって明示化し、それに対する批判も含めて透明に開示することである。

話を元に戻そう。言いたいことは、小さな人口に小さな施設でも、ユニークな舞台芸術の創造は可能だということである。むしろ、小さな人口の地域で、貸館利用が少ない施設においては、城崎のように、力のあるユニークな指導者の下で、積極的にアーティストの長期利用を優先することで、多様な活動が地域を活性化することにつながることもあると言いたい。ましてや、ある程度人口のある都市においては、古くなって利用の少なくなった小規模施設がどこにも一つや二つあると思われるが、それらを制作力のある人物のユニークな活用提案にゆだねてみるのも一考であると思う。城崎や神戸のDANCEBOXは演劇やコンテンポラリーダンスが中心だが、クラシック音楽でもユニークな活動がある。それは、カレーで有名な宗次氏が個人資産をはたいて建設、運営している宗次ホールである。個々も小さなキャパシティのホールであるが、「もっと身近に、もっと人々の生活の中にクラシック音楽を」の理念のもと、「将来にわたっての不安材料が山積するいまだからこそ、人々の心を豊かにする文化に手を差し伸べたい。」という思いで、様々な公演を行っている。特にランチタイムコンサート、やスイーツタイムコンサートを含め、いろいろな時間帯のコンサートを企画したり、柔軟取り混ぜて多様なお客さんが参加しやすい提案をしたりしている。特に、国際的、全国的に有名な演奏家ばかりではなく、力のある地域のアーティストを発掘し、きめ細やかな連携を図っているのがユニークである。こうした企画力がホールの創造力を高めていると言える。これもぜひ参考にしたい事例である。新しいアートセンター型の公立文化施設は特にこうした事例を参考にしてゆくべきであろう。

最後に、岡崎市民会館の事例を挙げる。岡崎市民会館は50年目を迎える直前に大改修を行い、オーケストラピットを廃止して、舞台奥行を大きく広げた。そして、それを契機に、舞台を3面で囲うパノラマと呼ばれる3面スクリーンを設置して、高輝度のプロジェクターを4台用意してもらった。これは改修当時にはまだ、先端的な設備であった。そして、この設備を最大限に利用するため、地域のダンスや音楽に着目した。岡崎市には、光ヶ丘女子高等学校という私立の高等学校があり、そのダンス部の活動は全国で優勝、入賞を繰り返すレベルの高い活動である。そして、その活動をとおして、何人かのプロ、セミプロのダンサー、振付家が生まれている。また、近年では岡崎女子大学・短期大学のダンス部も活発になっている。その環境を尊重し、さらに岡崎の舞台芸術を発展させるために、地域から育った振付家、作曲家、演奏家、映像作家の連携を図り、2019年に「ひとのけしき」と呼ぶ総合作品を創出した。制作にはかなりの労力が必要であったが、結果、地域の人々からも喜ばれ、また、舞台技術の面では、劇場における新しいプロジェクション環境を活用したユニークなものとして評価された。岡崎市民会館は、愛知県立芸術大学とも連携して、2018年に3面スクリーンの映像付きコンサートを実施し、やはり、ユニークな活動として評価されている。このように、地域資源を見直しながら、新しい動きを考えることはどんな地域でも必ず可能である。そうした、オリジナルな作品を作る動きが全国の公立文化施設にひろがることを期待したい。

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