芸術監督の部屋 第3部:プログラム提供型機関を作る

3-1 プロデューサー、プログラム・コーディネーター、ファシリテーターとしての能力を磨く

これまでに考察してきたように、公立文化施設に期待される活動、あるいはプログラムは、非常に多岐にわたるようになっている。そして、それぞれのプログラムに対応して、それを遂行する高い専門能力が職員に必要になっている。

公立文化施設が主体的に制作業務にかかわる事業、すなわち、本来使われてきた意味での自主事業を行うようになってから、長年、職員の制作能力について、その不足が大きな課題になってきた。多くの自主事業は買取公演であるが、作品を提供する劇団や楽団、あるいはプロモーター、新聞社・放送局などと、常にコンタクトを行い、フレッシュな情報を獲得し、あるいは、自らのアンテナで面白い、あるいは意味のありそうな作品やアーティストを探し出し、公演可能性を打診し、可能性があれば、公演料、旅費、宿泊費、広告宣伝費、照明・音響等の技術関連費用、施設利用料、著作権料等を確認しつつ、必要な契約を行い、公演までの日程調整を図り、ポスターチラシ、プログラムなどの広報資源をつくり、チケット販売を行い、招待者をとりまとめるといった膨大な作業を適切に行わなければならない。これには、様々な立場の人々との契約交渉など厳しいコミュニケーションが必要であり、また、時には、出演者の病気、天変地異など不測の事態もおこることを想定し、いろいろな事態にあらかじめ備えておかなければならない。これは大変高度な専門能力を必要とする。しかし、貸館事業に対応するように採用された職員は、通常業務として、受付業務や技術サポート業務を中心に訓練されており、制作業務に対する教育や研修を受けたことがないのが一般的である。また、金銭契約というシビアな環境下で、日々、多様な関係者と様々な対外的ストレスと向き合わなければならないため、性格的に適さないことも多い。したがって、従来の職員体制を保持したまま、貸館型の運営からプログラム提供型の運営に切り替えることは決して容易ではない。

さらに、先に示したように、これからの公立文化施設は、その社会的効用を明示的に示すために、市民参加を推進し、鑑賞事業のみならず、市民参画事業、社会包摂事業、地域連携事業など、多様なプログラムの展開が期待されている。そこで必要になるのは、まず、プロデュース能力である。舞台芸術分野におけるプロデューサーは、作品制作に必要な創造の枠組みをつくることが仕事である。今どんな創造作品が求められているのか、地域に何を提供しなければならないかを考えることから始め、その創造にふさわしい演出家、舞台美術家などのメインスタッフを構成し、彼らの意図を理解しつつ配役を手配、契約し、資金調達・計画をつくり、仕事をスケジュールに乗せて作品を完成させる役割である。今、公立文化施設には、こうしたスキルを持つ専門家が圧倒的に少ない。

加えて、公立文化施設では、民間の劇場・音楽堂にはない役割が期待される。地域に公立文化施設が根を下ろすために、地域のアーティストや多様な市民、市民団体とのコミュニケーションスキルを磨き、また、継続的に事業を展開、発展させるための信頼獲得や活動の持久性などへの思いを常に抱き、深める独特の能力を必要とする。すなわち、プロデュース型の専門力を充実させるだけではなく、プログラム・コーディネーター、ファシリテーターとして、できるだけ多くの市民の知恵を活動に取り込み、生かしてゆく能力も期待されるのである。それは、1990年代に始まった公立文化施設の企画段階から開館までの市民参加のプロセスを、開館後もさらに発展的に継続、展開する仕組みづくりでもある。特にこれからは、単なる貸館運営ではなく、プログラム提供型機関として、年間のプログラムを市民とともに調整したり、創ったりする積極的な運営が必要になっており、そのためには、コーディネーター、ファシリテーターとしての能力を高めることが非常に重要になると思われる。

2-16章において、公立文化施設の創造性獲得の展開方向としてプロフェッショナル・リージョナルシアターとコミュニティシアター、アートセンターの3つの方向性があることを示した。それぞれ、目指す方向が異なっているため、それぞれの職員に期待される役割は当然異なる。しかし、いずれの場合にしても地域の中で成長する創造する公立文化施設として、上記に述べた能力の獲得は共通して必要になると思われる。

公立文化施設を管理監督する行政においては、現在、職員、財政、施設のコンパクト化が大きな流れとなっている。したがって、新しい制作担当の職員雇用の経費を増加させる了解を取り付けるのはかなり難しいだろう。しかし、他方で、公立文化施設は、その存在意義そのものを問われており、貸館という受け身の体制だけに頼る存在意義はますます弱くなるだろう。これからの公立文化施設は、多くの人々が注目し、あるいは、理解を示す様々なプログラム提供を充実させることで、存在意義を持たせること以外に存続する道はないようにも思われるのである。そして、アートには、生きていることの重さ、楽しさ、時として悲しさ、やるせなさを気づかせてくれる力、あるいは人と人のかかわりを気づかせ、力づける力など、様々な力があることが経験的に知られるようになっている。すなわち、人々の持つ感受性や創造力の喚起こそ、アートのもつ根源的な力である。まさに、その力を最大限に引き出し、地域を積極的に支えるのが公立文化施設の役割であり、大義であると言えるのではないか。

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