芸術監督の部屋 第2部:プログラム提供型機関としての諸課題

2-23 民間の助成、クラウドファンディング

地方自治体による公的支援は、助成の公正性を厳しく問われるため、私的な色彩が強い文化芸術活動への支援としては不自由なことが多い。このため、助成のビジョンや目的の明示化、審査過程の透明性、評価システムの整備などが、不可欠になる。しかし、どの様に公正に公的助成の枠組みを整備しても、その不自由さは残り、小回りは利きにくい。このような不自由さに対して、民間の助成制度は自由度が高い。文化芸術活動への私的助成制度として、最もしっかりしているものの一つが、公益財団法人セゾン文化財団である。セゾン文化財団は文化人としても活躍した堤清二によって設立された助成型財団である。その特徴は、現代演劇・舞踊に特化していること、創造のプロセスを総合的、ステップアップ的にとらえて複数年度の支援を行うこと、財団が所有・運営する森下スタジオを活用した「場の提供」も並行して行うことなどである。選考基準としては、独創性、将来性、適時性、影響力、実現性などが評価される。公的な助成制度よりも、対象分野を絞り込み、より自由であるが、助成の枠組みは、申請者にわかりやすいように整えられている。民間の助成制度はこのほかに、公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団、アフィニス文化財団、公益財団法人エネルギア文化・スポーツ財団、公益財団法人三菱UFJ信託地域文化財団など、いろいろな財団が行っており、それぞれ特色ある活動を展開している。しかし、セゾン文化財団のように現代演劇や舞踊という先端的なジャンルに特化したものは少なく、社会的評価が定まっている美術、音楽、オペラ、演劇、舞踊などのハイアートが中心になっているように思われる。

こうした環境の中で、社会活動に対する寄付や支援の枠組みは、クラウドファンディングの登場により、劇的に変化している。クラウドファンディングは、あるプロジェクトの資金を集めるために急激に広まったインターネット環境をとおして、資金を集める方法である。ある商品を開発するために係る初期投資資金をインターネット環境で集め、プロジェクトが成功すれば、その製品で投資者に還元する方法(購入型)もあれば、寄付に頼る場合(寄付型)、株式の取得による投資型もあり、対価に対しては多様である。Indiegogo、Kickstarterなど多くの企業がクラウドファンディングの基盤を提供している。舞台芸術の場合は、単に寄付を募るというよりは、チケットやグッズとの交換、あるいはアーティストとの出会いの設定などいろいろな工夫がなされている。今、この原稿を書いているのは、新型コロナウイルスによる社会不安の真っただ中である。文化芸術活動は、人と人との接触によって生まれるものであり、新型コロナウイルスに対する社会的対策の中では、最も厳しい対応が求められている。生活の基盤そのものが奪われている人々が多い。そうした中では、社会的支援の一環で芸術家を支援するクラウドファンディングが多く立ち上がっている。これらの変化はおそらくコロナ禍が終焉したのちも、確かな社会現象としてより大きな方向に進んでゆくものと期待される。

ここで、一つ注目したいクラウドファンディングがある。それは、REDYFORという基盤を利用した、東京芸大クラウドファンディングiである。これは、東京芸術大学が創立130周年を契機に始めたクラウドファンディングで、東京芸術大学の教職員などが立ち上げる多様なアートプロジェクトiiが展開され、多くは100%以上の資金集めに成功してプロジェクトが成立している。このように大学のような公的機関もクラウドファンディングに注目を始めている。公立文化施設においても、クラウドファンディングの可能性を追求することを検討してはどうか。可児市文化創造センターalaは衛紀生館長が、クラウドファンディングの検討を始める旨のコメントを発信しているiii。公立文化施設においては、特に、多くの観客を集客することが難しいが、地域にとって大切な社会的財産である、地域在住のアーティストと潜在的な地域の観客を結びつけるような企画、あるいは、地域の子供たちに夢を与えられるようなユニークな企画、劇場に足を運ぶことが難しい人々の芸術活動を届ける活動など、大事な活動であるが、チケット収入だけでは採算が得られないような企画に適しているように思われる。

クラウドファンディングは、新しい共であるという指摘がある。筆者は、これまで共益性よりも公益性が重要であると主張してきた。その意味で、クラウドファンディングの共と、公共性の重視は筆者の考察として矛盾するようにも見える。そこで、クラウドファンディングの新しい共がどのように意味があるかを付け加えておきたい。旧来の共益型組織は一般的に、会員へのサービスに閉じていることが多い。しかし、クラウドファンディングは、あるプロジェクトごとは、そこへの参加者が限定されているが、そのプロジェクトへの参加はクラウドファンディングの基盤システムによってだれにも開かれている。この点が大きく異なる。文化芸術は極めて個人的で個別的な価値観にもとづくものであり、その意味で究極の私的存在である。それが、社会的に価値をもつのは、個人の価値観を超えて、地域や世界の文化形成と蓄積に大きな力を及ぼすからである。そして、そのような効果があらわれるのは、文化芸術が「開かれ」るという性格を持つからである。クラウドファンディングは、その意味で、あるプロジェクトに興味を持つ極めて小さい共の集団であるが、そのプロジェクトそのものが社会に開かれるという性格を付与されるがゆえに、芸術行為というマイナーな活動を社会の大きなうねりと結びつける新しい仕組みとして期待できるのでないかと考えるのである。

  1. 東京芸大クラウドファンディング、https://readyfor.jp/lp/tokyogeidai/、accessed 2020.6.20
  2. 同上、「戦没学生の音楽作品よ、甦れ!楽譜に命を吹き込み今、奏でたい。」、「藝大キャンパスを通る道沿いを、武蔵野の緑あふれる空間へ」、「世界初 クラシック曲"四季"をアニメ化!気鋭の映像作家4人が競作」、「小泉文夫の研究姿勢を受継ぐ、児童向けweb教材を充実させたい」など、多様なプロジェクトが展開されている。
  3. 衛紀生、可児市文化創造センター、公立劇場にクラウドファンディングは可能か、https://www.kpac.or.jp/kantyou/essay_164.html、accessed 2020.7.7
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