芸術監督の部屋 第2部:プログラム提供型機関としての諸課題

2-19 助成金のビジョンの整備とソフトへの転換

これが変わり始めるのが、1990年代である。文化芸術活動に対する国の助成システムに二つの変化が起こる。一つは、芸術文化振興基金の設置であり、もうひとつは財団法人地域創造の設置である。

芸術文化振興基金は多様な文化芸術活動に対し安定的、継続的に助成を行うことのできる基金の必要性から1989年に国立劇場法を改正する形で設置された。500億円の政府の出資だけではなく、賛同を得た134の民間企業からの拠出金112億円を含めて、その運用益によって文化芸術への幅広い助成を行うものである。この助成は幅広の対象を意図しており、舞台芸術等部会、映像芸術部会、地域文化・文化団体活動部会、文化財部会の四つの部会が置かれ、専門的な立場から審査を行う13の専門委員会が設置された。

この枠組みをさらに展開したのは、1996年に設定されたアーツプラン21である。それは、「文化庁長官の私的諮問機関である文化政策推進会議の報告『新しい文化立国をめざして-文化振興のための当面の重点施策について-』 では、21世紀に向けた新しい文化立国を目指して文化基盤を抜本的に整備することを求めており、特に芸術創造の活性化に関しては、我が国における現在の活勲基盤が極めて不安定な状況にあると指摘し、それを支える安定した創造環境を充実整備していくことが不可欠である旨、提言している。『アーツプラン21』は,この提言に応え,平成8年度に文化庁の新規施策として,従来の芸術創造活動に対する支援事業を一体的に機能するよう再編成した総合的な支援事業であるi。」アーツプラン21においては、芸術創造特別支援事業、国際芸術交流推進事業、芸術創造基盤整備事業、舞台芸術振興事業の4本の軸が設定された。以下に文化庁30年史から関連部分を引用するii。芸術創造特別支援事業はそれ以前に行われた職業芸術団体への支援を纏めたものであり、「オーケストラやオペラ,バレエ、 演劇など我が国舞台芸術の水準向上の直接的な牽引力となることが期待される芸術団体に対して重点的に支援するもの」である。また、単年度支援のみならず、「年間の自主公演活動を総合的に、しかも継続して支援する点に特色がある。」国際芸術交流推進事業は新しく設定された枠組みであり、「国際的な芸術交流を進め、新たな世界文化の創造に貢献するため、海外フェスティバルへの参加や我が国で開催される国際フェスティバルなどを支援するものである。」そして、「平成10年度は、音楽 7公演,舞踊 6 公演,演劇13公演の合計26公演と国際フェスティバル演劇 1公演が採択された。」芸術創造基盤整備事業は、これまでの芸術家在外研修等をまとめたものであり、「我が国の次代の芸術界を担う若手芸術家の養成・研修や調査研究など,芸術各分野の全国的な統括団体が実施する芸術創造のソフト基盤を整備する活動を支援するものである。」「平成10年度は、人材養成事業18,調査研究事業13の計31事業が採択された。」舞台芸術振興事業はこれまでの職業舞台芸術団体への支援に追加する形で、あらたに設けられたものであり、「芸術文化振興基金(日本芸術文化振興会)に対する補助金により、創作性の高い優れた国内公演を公演単位で支援するものである。」「平成10年度は、音楽25公演,舞踊14公演,演劇46公演の合計85公演が採択された。」 アーツプラン21において、これまでの文化庁を軸とした文化芸術関連の助成金が、大きなミッションのもと、戦略的、統合的にまとめられることになったが、それ以前から存在していたメディアアート関連、芸術劇場関連、移動芸術祭、アーティストインレジデンス事業など多様な助成金はまだ統合されずに残されていた。それらの統合を含めて、再度、文化庁の文化芸術政策が進展するのは、2002年から始まる「文化芸術創造プラン(新世紀アーツプラン)」である。文化芸術創造プランにおいては、それぞれの支援事業には、少し長いが目的が分かりやすい名称がつけれるようになる。これまでの職業芸術団体への支援は「トップレベルの舞台芸術公演、伝統芸能、映画製作等への重点支援(芸術団体重点支援事業)」、国際芸術交流推進事業は「舞台芸術の国際フェスティバルの開催」と「優れた芸術の国際交流」、芸術創造基盤整備事業は「世界に羽ばたく新進芸術家の養成」といった具合である。また移動芸術祭などは「こどもの文化芸術体験活動の推進 本物の舞台芸術に触れる機会の確保」、「学校の文化活動の推進 学校への芸術家等派遣事業」、「文化体験プログラム支援事業とそれに引き続く、地域人材の活用による文化活動支援事業」などである。公立文化施設に対する支援もこの枠組みに含まれるようになり、「芸術拠点形成事業」や「公立文化施設の活性化による地域文化力の発信・交流の推進」などが加わる。そして、この公立文化施設関連の事業は、その後、地域の芸術拠点形成事業としてまとめられ、「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」が加わり、さらに「地域の中核となる劇場・音楽堂からの創造発信」に展開する。

このように、アーツプラン21、そして文化芸術創造プランによって、文化庁関連の助成事業は、大きな柱にまとめられてゆく。そして、その助成事業の中核として、芸術文化振興基金が成長した。芸術文化振興基金は、「すべての国民が芸術文化に親しみ、自らの手で新しい文化を創造するための環境の醸成とその基盤の強化を図る観点から、芸術家及び芸術に関する団体が行う芸術の創造又は普及を図るための活動、その他の文化振興又は普及を図る活動に対する援助を継続的・安定的に行う」iiiとしている。助成は、基金の原資を使った助成と文化庁が毎年支出する国からの補助金(文化芸術振興費補助金)による助成事業の二つの枠組みによって行われる。

基金を使った助成の対象は、1)芸術家及び芸術団体が行う芸術の創造・普及活動、2)地域の文化振興を目的として行う活動、3)文化に関する団体が行う文化の振興、普及活動として、1)については、オーケストラ、オペラ、室内楽、合唱、バレエ、現代舞踊、演劇等舞台芸術の公演活動、文楽、歌舞伎、能楽、邦楽、邦舞等伝統芸能の公開活動、落語、講談、浪曲、漫才、奇術等大衆芸能の公演活動、美術の展示活動、国内映画祭等の活動、特定の芸術分野にしばられない公演・展示活動、2)については、文化会館、美術館等の地域の文化施設において行う公演、展示その他の活動、歴史的集落・町並み、文化的景観のセミナー、資料収集・作成、普及啓発による保存・活用活動、民俗文化財の公開、広域的な交流、復活・復元による伝承、記録作成による保存活用等の活動、3)については、アマチュア等の文化団体が行う公演、展示その他の文化活動、伝統工芸技術、文化財保存技術の保存伝承、公開活用、記録作成による保存活用活動、衰退した伝統工芸技術の復元活動を対象としている。つまり、平たく言うと、1)プロの芸術家、芸術団体への支援、2)文化施設、文化行政担当部局への支援、3)アマチュア文化活動や伝統工芸への支援の3本が柱になっている。

芸術振興費補助金による助成は、「我が国の芸術団体の水準向上を図る国内における舞台芸術の創造活動や、国際的な実演芸術の公演活動、劇場・音楽堂等が主体となって行う実演芸術の創造発信、優れた日本映画の製作活動を支援することを目的」とするもので、芸術団体の水準向上と鑑賞機会の提供を図る舞台芸術の創造活動への助成、芸術団体の水準向上と国際発信力の強化を図る国際的な公演活動への助成、優れた日本映画の制作活動への助成 ①劇映画②記録映画③アニメーション映画、劇場・音楽堂等が主体となって行う、実演芸術の創造発信等への助成からなっている。

助成は、原則として年1回(映画製作は年2回)、公募により行われる。現在の助成のカテゴリーは7つある。舞台芸術・美術等の創造普及活動、国内映画祭等の活動、地域の文化振興等の活動、舞台芸術創造活動活性化事業、国際芸術交流支援事業、劇場・音楽堂等機能強化推進事業、映画製作への支援である。その中で、特に舞台芸術にかかわるものを抽出して示す。

「舞台芸術・美術等の創造普及活動」は、「自らの手で新しい文化を創造するための環境の醸成とその基盤の強化を図ることを目的」に「優れた実績や豊かな将来性を有するが財政的基盤が十分でない芸術文化団体等の創造・普及活動、次世代を担うことが期待される芸術家等の芸術文化活動、芸術文化の新たな局面を切り開く先駆的・実験的な創造活動、優れた芸術文化活動で、かつ、その性格上採算の望めない活動」ivに対する助成である。

「地域の文化振興等の活動」は舞台芸術関連については「地域文化施設公演・展示活動(文化会館公演) 地域の文化の振興を目的として行う、文化会館等の地域の文化施設の公演の支援、アマチュア等の文化団体活動 アマチュア、青少年等の文化団体が行う文化の振興又は普及を図るための公演、展示その他の活動の支援が対象となっている。

「舞台芸術創造活動活性化事業」は音楽分野、舞踊分野、演劇分野、伝統芸能・大衆芸能分野の個別公演に対する助成であり、「国からの補助金(文化芸術振興費補助金)を財源として、我が国の舞台芸術の水準を向上させるとともに、より多くの国民に対する優れた舞台芸術鑑賞機会の提供を図るため、国内で実施する舞台芸術の創造活動を助成するもの」vと規定されている。これは、芸術文化振興基金の原資を利用するのではなく、文化庁の文化芸術振興費補助金を使うものであり、特徴的なのは、単年度の公演事業支援のみならず、ある基準を満たす団体に対しては複数年度計画への支援が可能であったり、将来的に日本の文化芸術をけん引することが期待できたりするような団体に対するステップアップ枠が用意されていることである。補助の考え方が明確に指示されているところが今日的である。

「国際芸術交流支援事業」は「我が国の芸術団体の芸術水準向上と国際発信力の強化を図り、 我が国の国際的なプレゼンスの向上と「文化芸術立国」の推進に寄与するため、国内外で実施する実演芸術の公演活動を助成」viするものである。

「劇場・音楽堂等機能強化推進事業」viiは「「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」及び「劇場・音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」の目的・内容を踏まえ、我が国の文化拠点である劇場・音楽堂等が行う、音楽、舞踊、演劇等の実演芸術の創造発信や、専門的人材の養成、普及啓発のための事業、劇場・音楽堂等間のネットワーク形成に資する事業を支援することで、我が国の劇場・音楽堂等の活性化と実演芸術の水準向上を図るとともに、地域コミュニティの創造と再生を推進することを目的」とするものと規定され、劇場・音楽堂等機能強化総合支援事業、地域の中核劇場・音楽堂等活性化事業、共同制作支援事業、劇場・音楽堂等間ネットワーク強化事業の4つの事業の枠組みが用意されている。文化芸術活動に重点を置き、拠点性の強い公立文化施設(劇場・音楽堂等)を選別的、重点的に支援する枠組みで、活動の趣旨と同時に施設が使命とするミッションの評価が重要とされる。

劇場・音楽堂等機能強化総合支援事業は、平成30年度に、都道府県10、政令指定都市4、市町村1、民間1の事業が採択されているviii。内容をみると、わが国で、最もユニークな舞台芸術創造活動を行っている地域の文化施設である。こうした突出した活動を行っている各地の公立文化施設を重点的に助成する方向性は、70年代、80年代には見られないものであり、専門家がかかわる審査制度を透明化することで、個性的で牽引的な活動に大きな焦点を当てることに成功していると言える。

地域の中核劇場・音楽堂等活性化事業は、地域の中核的役割を担う劇場・音楽堂等が、地域の特性・ニーズを踏まえ、地域の文化拠点としての機能を最大限発揮する取組(公演事業、人材養成事業、普及啓発事業)に対して活動別に支援するものである。令和2年度採択団体:85団体(愛知県8団体)であった。

共同制作支援事業は、実演芸術の創造発信力を高めることを目的として、複数の劇場・音楽堂等が複数又は単一の実演芸術団体等と共同して行う実演芸術の新たな創造活動(新作、新演出、新振付、翻訳初演等の公演事業)に対して支援するものである。令和2年度採択団体は2団体で、オペラなど大物が多い。

劇場・音楽堂等間ネットワーク強化事業は、劇場・音楽堂等相互の連携・協力の促進とともに、国民及び外国人がその居住する地域等にかかわらず等しく実演芸術を鑑賞できるよう、劇場・音楽堂等又は実演芸術団体が企画制作する実演芸術の巡回公演に対して支援するものである。令和2年度:音楽5事業、舞踊2事業、演劇23事業であった。

芸術文化振興基金の功績は以下の点にある。ひとつは、公的資金のみならず民間の寄付も含めた枠組みが提供されたことである。このことは、基金の運用にあたり、一定の透明性を与えることになった。二つ目は、基金の運用にあたり、選考と評価のシステムが大きく進化したことである。国の文化芸術に関する助成金額が大幅に増額さるとともに、助成交付要領作成、応募、審査などの手続きが日本学術振興会による科学研究費助成事業のように透明化されることで、我が国の文化芸術の助成枠組みに大きな変化を生んだ。三つ目は助成の枠組みが、戦略的になされるようになったという点である。アーツプラン21、文化芸術創造プランを通して、文化芸術のあるべき姿がビジョン化され、重点的に支援すべき活動に対する方向性が明確にされた。このようなビジョンは、当然社会が変化する中で、常に見直しが必要であるが、そうした見直しが、専門家の力を借りて公正に、かつ、分かりやすく提示されていれば、助成金を受ける側も、社会に対する自らの活動の価値を常に見据えるきっかけとなり、応募目的も明確化される。

  1. アーツプラン21、新しい文化立国の創造を目指して-文化庁30年史、2部この10年を振り返って、文化庁、1999年、p69
  2. 同上、PP.70-72
  3. 芸術文化振興基金、基金の目的、https://www.ntj.jac.go.jp/kikin/about/top.html、 accessed 2020.05.20
  4. 芸術文化振興基金、令和2年度助成対象事業活動募集案内-その1-、舞台芸術・美術等の創造普及活動、p.4
  5. 芸術文化振興基金、令和2年度助成対象事業活動募集案内、舞台芸術創造活動活性化事業、p.1
  6. 芸術文化振興基金、令和2年度助成対象活動募集案内、国際交流支援事業「海外公演」、p.1
  7. 日本芸術文化振興会、 劇場・音楽堂等機能強化推進事業、https://gekijo-ongakudo.ntj.jac.go.jp/index.php、accessed 2020.5.20
    評価についてはhttps://gekijo-ongakudo.ntj.jac.go.jp/hyouka/2019hyouka_list1.htmlに掲載されている。
  8. それらは1.彩の国さいたま芸術劇場:蜷川レガシーの継承と芸術文化による地域づくり・社会包摂機能の強化、2.サントリーホール:サントリーホール主催事業、3.東京文化会館:より多くの人々に集い親しまれる劇場へ、4.すみだトリフォニーホール:文化芸術振興による「すみだ」の地域力の向上、5.世田谷パブリックシアター:世田谷パブリックシアター 劇場・地域の文化芸術振興事業、6.東京芸術劇場:舞台芸術の創造現場を魅せる劇場、7.KAAT神奈川芸術劇場:神奈川県芸術文化創造総合センター推進事業、8.ミューザ川崎シンフォニーホール:~音楽で人と人とをつなぐ~音楽によるまちづくり推進事業、9.新潟市民芸術文化会館:新潟ファイブ・リングス・プロジェクト、10.可児市文化創造センター:まち元気プロジェクト、11.静岡県舞台芸術センター:演劇創造の世界的拠点強化事業、12.愛知県芸術劇場:劇場による地域文化向上プロジェクト、13.滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール:びわ湖ホール三方よし創造実践事業、14.兵庫県立尼崎青少年創造劇場:“「観る」「知る」「学ぶ」そして「繋がる」50年へ”行動計画、15.兵庫県立芸術文化センター:ひょうご舞台芸術魅力拡充事業、16.北九州芸術劇場:創造都市=クリエイティブ・シティ実現に向けた『北九州芸術劇場・長期ビジョンに基づく中期計画』である。
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