芸術監督の部屋 第2部:プログラム提供型機関としての諸課題

2-15 社会包摂型プログラムの展開と課題

芸術と社会のかかわりについて、古典的な考え方は、「芸術は人間の創造性が結晶したものであり、それ自体に高い社会的価値がある」、あるいは、「芸術は18世紀、19世紀を通して、民衆の公論を喚起することで、民主主義社会を涵養する役割を担った」ため、社会は積極的に芸術を支援するべきであるとするものである。特に、ボーモルやボーエンが芸術は社会が合理化することで、自立できにくくなるという病理を学術的に示したことで、その社会的支援の必要性がより強く問われるようになった。しかし、21世紀にはいると、ハイアートばかりではなく、多様なアートが社会に登場し、その優劣を問うことが難しくなり、また、社会経済の低迷や高齢社会の到来による社会福祉関連経費の増大などの芸術支援をめぐる環境の変化もあり、芸術至上主義的な考え方について異論が唱えられるなど、芸術価値そのものの優位性に対して疑問符が出されるようになった。

また、経済格差の拡大、貧困の蔓延、民族対立、世代間の断絶、環境劣化、宗教対立など様々な社会問題が噴出し、芸術だけがそれらとは無縁の活動をしていていいのだろうか、新しい社会問題に対して芸術はどのように向き合うべきだろうかという疑義が大きく提出されるようになった。もともと芸術行為は社会の様々な課題にたいして表現を通して昇華させて世に示す役割も持っており、芸術についての社会的支援もそうした芸術と社会との関わりの中で評価すべきだという視点が重要視されるようになっていると言える。

また、芸術の多様性が大きくなり、他の芸術に対してある芸術がアプリオリに優位だと評価することが困難になり、より客観的に社会的支援のための価値を評価するには、その社会的効用の多さを評価の尺度にしたいとする考え方も生まれている。現実的に言えば、芸術は社会に対してどんな貢献をしているのか、その貢献の程度に合わせて支援をすべきという考え方である。

こうした潮流のなかで、大きく注目を浴びているのが、芸術の社会包摂機能である。芸術は、その制作過程で、心を開放したり、常識的な枠組みを破壊して新しい認識の地平へと視野を広げたり、人と人のコミュニケーションを深めたりする力を持っている。芸術の持つそうした能力を今までの鑑賞や参加の枠組みを超えて、社会包摂のためにもっと活用しようという動きである。例えば、館長、衛紀生のリーダーシップにより芸術の社会包摂機能を積極的に事業の中心に据えている可児市文化創造センターiは、「人間の家に」をモットーに、「アーラまち元気プロジェクト」iiとして、「児童・生徒のためのコミュニケーションワークショップ」、「多文化共生プロジェクト」、「みんなのディスコ」など、障がい、国籍、年代、性別などの垣根を超え、地域の課題に入ってゆくプログラムを積極的に展開している。

このような事業が示す新しい方向性は、従来、公立文化施設が中心に行ってきた既存の劇団や楽団との連携による鑑賞事業、あるいは地域の物語などを発掘する市民劇、市民ミュージカルなどの市民参加型事業では招き入れることができなかった多様な人々と積極的、かつ意識的に関係づけを図り、社会に潜む様々な課題を芸術が持つ、その独特な力によって解決を図ろうとすることにあると考える。つまりこれらの活動は中途半端な気持ちではできない。それぞれの社会の課題に真摯に立ち向かい、その課題そのものを心から解決してゆこうとする意志を持ち、そのための環境を構築することを真の業務として、つねにかかわってゆく覚悟が問われるといえよう。そのためには、福祉や医療、教育の現場とも真摯に向き合わなければならない。このような覚悟は今までの公立文化施設の職員には問われることがなかった。そうした覚悟をどのように作り出してゆくかが、社会包摂機能と向き合う公立文化施設には要請されている。また、対象となる社会包摂分野に対する専門知識の習得、あるいは、専門家との連携も重要になる。

  1. 可児市文化創造センター、https://www.kpac.or.jp/
  2. 「人々が出会い、思い出を共有し、お互いを理解する繋がることで新しい絆が生まれ、生きる活力が湧いてきます
    お年寄り、子ども、外国籍の方、障がいを持った方、いろいろな方が住むこの可児市でアーラは文化芸術の持つ力で市民の皆さんに元気と明日の希望を届けます」、https://www.kpac.or.jp/machigenki/、accessed 2020.6
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