芸術監督の部屋 第2部:プログラム提供型機関としての諸課題

2-13 公立文化施設でオリジナルな作品を制作するときの障害

貸館を優先する条例に規定される公立文化施設で稽古から本番までを一体的に自主制作をしようとすると、自分の施設が自由に使えないという大きな課題があることを述べた。そのほかにも、いろいろな障害がある。

まず、最大の課題は海外の公立劇場のような専属の創造集団がいないことである。したがって、何かを創ろうとすると外部の演出家や振付家、舞台美術家、舞台照明家、舞台音響効果家などのメインスタッフや創造集団と連携する必要がある。制作ができるスタッフも乏しい。貸館施設を規定に従って受動的に管理することと、積極的に新しい作品を創り出していくことはスタッフに要請される能力が異なる。貸館施設の管理に関する受付は、スタッフの違いで対応が異なってはいけない。設置条例に基づいて作成された管理マニュアルに則って間違いなくしっかりと対応する必要がある。ところが、作品の創造においては、マニュアルはあったとしても、それに基づいて対応することは難しいことが多い。練習予定の日程に、キャストやスタッフが病気で突然来れなくなった。今まで考えていた予算にない、新しい材料を舞台装置や衣装で使わざるを得なくなった。こうした突然の事態に臨機応変に対応しなくてはならない。舞台にかかわる人々、特にアーチストは精神的にぎりぎりの状態に緊迫している。ちょっとしたスタッフの発言で、大きなトラブルになることもある。集客がうまく伸びず、チケットが売れないといった心配事もある。こうした、こまごましたことを、問題が発生する都度、最適な解決をしつつ、乗り切らなければならない。それには、はっきり、向き不向きがある。本格的に公立文化施設が創造活動を展開させようとすると、制作に係る専門能力や適応力を備えた人材を採用、養成しなければならない。技術スタッフも同様である。貸館においては、舞台監理技術者は、舞台を利用する人たちが、安全安心に、かつ、規定通りに使ってもらうことができるように見守ることが最も大切な用務である。しかし、舞台芸術を創造する過程では、発生する様々な技術的課題を、創造的に乗り切らなければならない。例えば、演出上、舞台の上に巨大な風船を載せたい、それをバトンで上下させたい、あるいはそれに映像を映したいというような要請が、演出側からあったとする。それをできませんというわけにはゆかない。軽い風船がバトンに吊られたときにどの様な挙動をするのか、それと他の設備が干渉しないだろうか、バトンを上下すると風船は大きく揺れるが、その揺れは演出上許されるのか、許されないのか、映像を風船に写すにはプロジェクターをどの位置に設置しなければならないか、その位置でのプロジェクターの設置を固定することができるだろうか、プロジェクターのシグナルはどのように伝送すればいいだろうか、など、考えるべきことは山ほど発生する。そして、その判断をできるだけ早く、演出側にお返しすることが重要になる。こうした制作的、技術的課題は毎日のように発生し、その都度、臨機応変な対応が望まれるのである。そして、このようなスタッフの対応は、その適正もあるが、日常的な創造活動の蓄積によって上達するものである。しかし、貸館中心の日常では、こうしたスキルを育てるチャンスがない。このように貸館と創造とは相いれない難しさがあるのである。

これからの公立文化施設は、プログラム提供型機関として、創造的な活動を増強してゆくことが望まれている。すなわち、スタッフの構成も、制作スタッフや技術スタッフを創造的なスキルを持つように養成し、活用するようにならなくてはならない。

また、自身に専属の舞台芸術集団を持たない場合、何かを創ろうとすると、外部の舞台芸術集団、スタッフとの連携が不可欠になる。しかし、活動に共同の創造過程を含む場合、外部の芸術集団、スタッフとの連携の場合、著作権などの権利保障の契約が不可欠になる。近年、芸団協(公益社団法人日本芸能実演家団体協議会)などの活動により、実演家の権利保障については、大きく社会の理解が広がった。演出や作曲などの著作権については、社会的に尊重されるように制度が整いつつある。しかし、筆者が公立文化施設で芸術監督を務めるようになって気づいたのだが、公立文化施設が、創造行為にかかわるときに、公立文化施設の創造性における権利保障の規定がほとんどない。ある作品を創ろうとするときに、創造のかなめとなるような創造的アイデアや構成の考え方など、公立文化施設側が創造的に提供することも多々あるのだが、作品にまとめる段階になると、それらの役割の権利保障は、慣例が少なく、ほぼ、アーチスト側の権利にまとめられてしまう。しかし、そうなると、積極的に公立文化施設がイニシアチブを取って、作品を作ったにも関わらず、契約次第では、次のプロモートや、作品づくりに、制作された作品の一部を使うことが不可能になってしまうこともあり得る。これは公立文化施設とアーチストとの関連のみならず、芸能プロダクションとアーチストとの関係にも見られるようで、アーチスト側の権利保障が、彼らが弱者であるという観点から強く規定されており、芸能プロダクション側からの権利保障は大きく取り上げられていないこともわかってきた。この辺りは、少し研究しなければならないのではないだろうか。

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