芸術監督の部屋 第2部:プログラム提供型機関としての諸課題

2-12 市民参加型プログラムの展開と課題

市民参加型の演劇やミュージカルがいつから始まったのか、その嚆矢はよくわからない。しかし、すでに、1980年代には各地で、参加型の演劇・ミュージカルが生まれているようだ。市民会館の開館を記念して能代市では能代ミュージカルが1980年から開始され、吹田市メイシアターでは1985年にやはり、メイシアター開館を契機に市民参加劇が始まっている。1990年後半から2000年を回るころには、全国各地で市民参加による舞台芸術公演が盛んにおこなわれるようになった。

上記2例のように、市民参加型演劇やミュージカルが生まれる背景には、公立文化施設の設置が影響している。地域に公立文化施設ができることはその地域にとって大きな喜びであり、行政からも市民からもそこを有効に使って記念になるイベントをやりたいという機運が盛り上がる。単に有名な劇団や楽団を呼んで鑑賞するにとどまらず、市民が皆で舞台に上がって盛り上がりたいという思いから、ミュージカルや演劇を創ろうというプロジェクトが生まれる。地域ゆかりの物語を発掘し、脚本を作り、演出家を決め、参加者を募集し、稽古を重ね、上演に至る。多くの場合、地域総出の実行委員会をつくり、運営体制が構築される。

類似の活動に、市民劇団、市民ミュージカル劇団、市民合唱団、市民オーケストラなどがある。これらは、公立文化施設の開館を契機に、行政や公立文化施設運営者が主導して立ち上げることが多い。これらの市民参加型事業は人集めから稽古、上演までには大変な手間がかかり、また、運営や組織維持に関する費用もかかる。そして、それらは制作に関するマネージメント業務や運営に関する経費を自治体や公立文化施設が負担するケースが多い。

市民参加型事業は公立文化施設への市民の関心を大きく集めることではとても効果的な事業である。また、出演者や演奏者の友人、親族、知人がこぞってチケットを購入してくれるために満席になることも多い。演劇やミュージカルの場合、地域になじんだ物語を主題にすることが多く、その意味でも多くの共感を得ることができる。しかし、いいことばかりではない。課題もある。一つは作品の芸術的な質である。いわゆるアマチュアが役者や演奏家として舞台に登場すると、どうしても作品の質が下がる。また、地域に由来の物語に拘り過ぎると脚本の質が低下する可能性がある。つまり、参加による市民の支持、共感と芸術的価値のバランスをとることが非常に難しいのである。運営についても、多くの人が実行委員会に参加すると、船頭が多くなり、運営に不協和音が生じることもある。特に、芸術作品の質を上げようとする立場の人々と、芸術作品を作ることは地域の活性化に寄与させるためだと考える人々の方向性の違いが、作品作りの過程で軋轢を生む場合がある。地域の人々のコミュニケーションづくりを大きな目標の一つにしながら、かじ取りを間違えると、コミュニケーションが不調になるという危険性も持っているのである。このことは、事業のコーディネーターに大きな負担を生じさせることになる。また、その解決にはコーディネーターの能力や体力が大きくかかわってくる。このように、市民参加型の企画は、公立文化施設に力のあるコーディネーターを育てることにもなるが、負担で押しつぶしてしまうこともある。そうならないようにするためには、組織的に担当者をきちんと支援する体制を組まなくてはならないだろう。

市民参加型プログラムを毎年継続しようと考えるとき、運営と経費の負担をどのように考えるかも重要な課題である。立ち上げは、実行委員会制度を使ったとしても、コーディネートや資金提供は行政や公立文化施設が主体的に行い、参加する市民は出演者、あるいは裏方や表方のお手伝いなど、コーディネーターの指示に従って動いているというぶら下がり体制になることも多いのが実態である。こうした市民参加型プログラムの最終的な目標は、市民により自律的に運営が行われることにある。行政や公立文化施設は常に、そうした組織の立ち上げを支援し、自立に誘導することで、新たな市民参加型事業を立ち上げ、それらが複数重なって自律的に運営されるようになり、地域や施設が活性化されることを考えるべきである。つまり、お抱えから自立化へといかに育ててゆくことができるかということである。武豊町民劇団TAKE TO YOUiは当初、武豊町民会館が中心となって立ち上げたが数年で自立した組織にすることを目標に活動し、活動助成は受けているものの、組織としては独立した形で展開している。武豊の場合は結成当時から、当初は立ち上げ支援をするが、できるだけ早く自立するように目標をしっかり立てたうえで行政と劇団と公立文化施設の関係を構築してきた成果と言える。

参加型事業は一時、第三者としての公的機関からの支援を受けやすい傾向があった。しかし、近年、あまりにも市民参加型事業が全国で展開されているため、その差異化が課題となっていることも課題の一つである。

  1. TAKE TO YOU武豊町民劇団、http://www.design-kids.com/taketoyo/、accessed 2020.06
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