芸術監督の部屋 第2部:プログラム提供型機関としての諸課題

2-8 貸館による施設空間利用の非融通性

公立文化施設の貸館運営は空気のように当たり前の制度になっており、よほど注意して観察しない限り、その矛盾を感じることは少ないだろう。しかし、施設利用の非融通性という観点に立つといくつかの課題が浮上する。

貸館運営においては、利用申請が受理され、利用者と利用契約が交わされたのちは、当日の室利用権利は利用者に渡される。管理者であっても、悪質な不正利用が発覚したり、利用により危険な状態が発生したりした場合など特殊な状況を除き、基本的に利用期間中は利用者の許可なくして、室利用への介入はできない。例えば、施設の見学者が利用中の室を見学したいと申し出があっても、原則、室を使っている利用者の了解なしに利用状況を見せることはできない。施設管理者は、このことを常に意識し、安心して施設を利用できる環境を維持するために、他者の介入がないように空間管理を行っている。

公立文化施設の貸空間として最も主要なホール利用の場合、一般に、舞台、客席、そして区画されたホワイエはひとまとめの貸空間区分として規定されている。したがって、稽古や仕込みなどで舞台のみを使う場合においても、客席やホワイエもまとめて利用者の専用空間とされ、そこに他者が入ることは基本的に許可されない。例えば、岡崎市民会館の場合は、主ホール(あおいホール)のホワイエの一部に軽量なガラスドアで区画されたサロンがある。ホワイエとは音響的に遮断されていない。したがってサロンをホール利用と別に使おうとすると音響的に干渉がおこる。また、ホワイエの動線を使わなければサロンに客を誘導できない。このため、自主事業で企画するサロンコンサートは、あおいホールの利用がない日程を探して開催している。しかし、本音を言うと、舞台稽古や仕込みなどで、客入りがなく、音響的な干渉も少ないと判断できる場合には、ホールと独立してサロンを使いたいこともある。しかし現状においては、貸館契約上のトラブルが生じないようにホールとサロンの別の企画による並行利用は行わない。

近年では、公演が行われていないときのロビーやホワイエをできるだけ一般的な利用に解放しようとする動きがある。それは1-14章「パブリックスペースの変革」において考察したように、これからの公立文化施設はロビーやホワイエを含む共通スペースをできるだけ開放的に利用してもらおうとする動きとして指摘したとおりである。例えば、平田オリザらが参画し、先進的な公立文化施設の在り方を探ろうとしている豊岡市新文化会館においては、その整備基本計画iにおいて、「建物の入口、ホール、創造活動部門諸室等を結ぶロビーや廊下等の共用空間は、これらの施設利用者だけが通行する単なる移動空間ではなく、催しがなくても中学高校生を含め市民が気軽に訪れ、交流や憩いの場となり、施設の賑わいを創出するためのスペースとして位置付け整備します。」と指示している。

また、苫小牧市民ホール建設基本計画iiにおいては、「それぞれの機能や用途の相乗効果が生まれる場として、特別に「コラボスペース」を新たに設けます。コラボスペースは、オープンスペースや4つの機能の諸室と緊密な関係を持たせた配置とし、図と地のバランスが取れた市民の居場所づくりを目指します。」と記載され、共通スペースを利用した交流機能の充実に力点を置いている。

四万十市文化複合施設の基本計画iiiにおいては、様々な機能の中心に賑わいを置き、「皆がいつでも立ち寄れる場所、市民にとっての「居場所」となります」というキャッチフレーズによる交流・情報事業を事業の枠組みの一つとして設定している。そして2020年3月に策定された基本設計ivにおいては小ホールと大ホールの間の空間を交流ロビーと命名し、開放的な小ホールと連動したイベントが開催できるように工夫されている。

共用部分をこのように多様に利用することを意識する公立文化施設は今後増加するものと考えられる。しかし、基本構想や基本計画で上記のような共用部分のにぎわいのある利用を目指したとしても、開館後の運用において、共用空間の緩衝作用を利用調整としてコントロールする仕組みをもたないと、室利用者との調整がうまくゆかず、杓子定規な利用になってしまうのではないだろうか。現在進行中の計画では、このような共通空間を介在した融通性のある施設利用を貸館規定とどのように調停してゆくのか、どのような仕組みで交流イベントを開催してゆくのか気になるところであり、その制度の在り方に注目してゆきたい。

1970年代ぐらいまでに計画された古い施設においては、室相互の音漏れが良く指摘されてきた。例えば太鼓のように建築躯体を通って伝わってしまう振動は、音漏れがする、やかましいというような利用者間の苦情となって表れた。こうした施設では、あらかじめ大きな音を立てることが予想される場合には影響が心配される室の利用を差し控えるなどの対策を行っている。

近年の公立文化施設の建築設計においては、このようなトラブルが生じないように、2重3重に遮音を図るなど、設計施工上での対策を講じている。しかし、このようなやり方は本当の解決をもたらしてくれるだろうか。2-5にて指摘したように、貸館制度に立脚する公立文化施設の利用者は、お互いの干渉を嫌うようになっており、相互の交流は希薄化している。そして、室の遮音性能などを上げれば上げるほど、活動の分離が進み、孤立が進行してゆくように思われる。むしろ、かつてのように、不十分な施設であるからこそ、利用者がお互いの利用を気遣い、相互に利用時間や利用形態を調整し、あるいは、多少の音漏れなどにも寛容になり、自然に利用者相互のコミュニケーションが深くなっていた時のことを再度見直してみてはどうであろうか。もちろん、あえて、建築性能を下げる必要はない。しかし、完全分離された貸館制度の規定や運用を見直すことで、施設の中で盛り上がるコミュニケーションの在り方を再考する時期に来ているのではないだろうか。「交流の場」としての公立文化施設となるために利用者相互の利用協力、利用調整ができる運用システムを積極的に制度設計する時代になったのではないだろうか。

  1. 豊岡市新文化会館整備基本計画、4 交流部門、p.9、
    https://www.city.toyooka.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/
    206/shinbunkakaikan_basicplan.pdf
    、accessed 2020.10
  2. ( 仮称 ) 苫小牧市民ホール建設基本計画 概要版、平成30年3月
    http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/files/00041600/00041606/
    20180628142357.pdf
    、accessed 2020.10
  3. 四万十市文化複合施設(仮称)基本計画、p11、2021年3月
    http://www.city.shimanto.lg.jp/gyosei/composite/doc/pdf/plan201904.pdf、accessed 2020.10
  4. 四万十市文化複合施設(仮称)基本設計概要版、2020年3月
    http://www.city.shimanto.lg.jp/gyosei/composite/doc/pdf/
    plan202004-gaiyou.pdf
    、accessed 2020.10
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